午前二時半。この時刻にたたき起こされる人間の気持ちは、トカゲでなくともよく分かる。
強引な起床に少々機嫌の悪いステンヴァールを連れ、私はハイフロスガー詣りに出立した。日の出までにたどり着ければいいのだが。
機嫌の悪かったスカイリム最強の傭兵も、いざ旅にでれば冷たい夜気を胸いっぱいに吸い込むノルドの喜びを見出すようだ。
ただし、重装鎧を着ての世界の喉登山はさすがの彼もまだ経験したことがないらしい。言われてみれば、確かに無謀だ。私は何度か往復したからすっかり慣れてしまったのだが。
道連れがいると、自分の非常識ぶりに気づかされることがある。
クリメクの話では、登山道には狼くらいしか出ない。私もその話をステンヴァールに伝えておいた。他にも何か狼でないものに出会った記憶があるのだが、どうにも思い出せない。サルモール大使館でのドタバタで、だいぶ記憶が飛んだようだ。そうでなくともヘルゲンで斬首刑にされる前の記憶がないというのに。
それはともかく、月はきれいだった。この空模様なら、朝には澄んだ青空が拝めそうだ。
ハイフロスガー詣でには竜の骨を納める他、「空の声」の加護を得る目的もある。
道中で襲ってきたアイスウルフ達はやむを得ず倒したが、キナレスの加護を得ることができれば、無用な殺生をせずに済むだろう。
大きな岩のひさしがかぶさる細道にさしかかり、私はようやく忘れていた脅威を思い出した。
トロールだ。しかも白いほうのである。ここに奴の巣があったのだ。
しかし姿が見えない。どこかへ引っ越しでもしたのだろうか。しばらく立ち止まってみたが、辺りには他の生き物の気配は全く感じられない。
ところがこちらが完全に警戒を緩めたところで、必然的な再会を果たしてしまった。
キツネでも追って巣から離れていたのだろう。細道を抜けた先の下り階段で、威嚇のポーズをとるトロールの姿が見えた。
ステンヴァールもあれが強敵であることを知っている。両手剣を抜き、戦闘の構えをとった。
だが待って欲しい。
揺るぎなき力
まさにこういう時こそ使うべき声の力である。
ハイフロスガーへ続く登山道は、声の道を行く者にとって神聖な場所。トロールのくさい血をあたりにばらまきたくはない。
声の力で退場いただくのが最良だ。
それにしてもあれほどうまい具合に吹き飛ぶとは思わなかった。
トロールの巨体が宙に浮き、崖の向こうに消えたところまでは見た。急いで後を追って下を覗き込んだのだが、もう姿が見えない。
逆の立場にはなりたくないものだ。
日の出に少し遅れ、ようやくハイフロスガー前に到着した。
夜の月が予言した通り、清々しい快晴である。スカイリムの半分が見下ろせる絶景だ。
ステンヴァールも喜んだ。ノルドとして世界の喉に登るのは光栄なことだと。彼は絶景を前に気持ちよく笑ったが、そんな彼の膝も相当笑っていた。
お互い若くないし、重たい鎧を着ての登山はなかなか堪える。しかも彼は重たい武器を背負っていたのだ。
こういう時、素手は身軽でいい。素手は最高だ。
残念だったのは、日の出の方向を失念していたことだ。
太陽は建物の向こうから登る。日が見えるまで待っていたら昼になってしまうだろう。まことに無念だ。
山頂には日の出がさしていた。いつかはあのてっぺんに登ってみたいものだ。あそこからなら、帝都の白金の塔すら見えるかもしれない。
ひとしきり景色を満喫した後、ハイフロスガーの奉納箱へドラゴンの骨と鱗を納めた。
ついでに老師達の食料にと、大量に持っているジャガイモを一緒に詰めようかと思ったのだが……。ジャガイモはすでに別の参拝者が一袋持ってきていたようだ。
私は泣く泣く、自分のジャガイモを所持品に戻した。
石板も巡礼して、キナレスの加護も得た。さあ、これでスカイリムの道中はこれまで通り平和だ。性根の悪い人間やエルフやトカゲや猫に襲われるくらいだ。
山道のヤギも、私の姿を見ても逃げなくなった。これまでは遠目に姿が見えるだけで逃げ回っていたのに、今や道端の石ころ同然に冷たく無視してくれる。
奉納箱にジャガイモを詰めるという野望は潰えた。
宿に戻った私はジャガイモを焼くために半分に切っていたのだが、宿の主人が塩を売っているのに気がついた。
昼のメニューがひらめいた。ベイクドポテトと、ポテトスープだ。水分はスープからとる。
ステンヴァールが明らかに嫌そうな顔をしたので、彼にはサケのステーキとハチミツ酒を用意してやった。
このイモ尽くし、一体いつまで続くのだろうか。
焼いたイモとすりつぶしたイモを腹に詰め、午後の旅へつく。
以前リディアが案内した道を行けば、今日中にホワイトランへたどり着けるはずだ。
あいにくと天気は下り坂で、小雨がちらつきはじめた。ただ、これ以上の雨にはならなさそうだ。
さて、私は相変わらず来た道を戻るのが苦手である。
何しろ視点が逆方向なのだ。方向音痴はこまめに振り返って来た道の景色を確認するという余裕を持たないから、さっき通った道を帰るのも難しい。
ここは何度か通ったはずだから、多分こちらの道なき山道にそれるので正しいはず。
私の背後で、ステンヴァールがいざというときの帰路をしっかり確認していたのは言うまでもない。
標高が高くなり、小雨は雪に変わった。
見覚えのある峠と霧に包まれた針葉樹の林が見えてくる。
峠を越えて開けた視界に一安心だ。
雪煙る眼下にホワイトランの平原が広がっていた。
悪天候も平原に降りる頃には変わっていた。遠くにドラゴンズリーチのシルエットを望むと、もうホワイトランに帰ってきたような気がするから不思議だ。
さて、今日の夕食は何にしようか。否、何を飲もうか。食うものは決まっているのだ。
今日の夕食は趣向を変えて「酔いどれハンツマン」でとることにした。
夕食の献立はベイクドポテト。これは当分固定で自由度はない。唯一の変化は飲み物だ。
さすがにポテトスープはやめて、秘蔵のホニングブリューをあけることにした。
ホニングブリューのお相伴にやってきたジェナッサが、皿の上の焼いたイモを見て笑ったのは言うまでもない。
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1. 明けましておめでとうございます~
急遽?ハイフロスガーまで初日の出を拝み行くとは
ステンヴァールさん的には前の日に言っといてよって感じでしょうねw
奉納箱にジャガイモを詰めるという野望には笑ったwwwもう売ればいいじゃん!!ってw
Re:明けましておめでとうございます~
当初は大晦日にハイフロスガーへ登り、除夜の鐘ならぬ除夜の揺るぎなき力をスカイリム全土に響き渡らせる予定だったんですが、なんやかやで年明けのプレイになってしまいました。
イモはまだまだ続きそう。ベイクドポテトが調理鍋で作成できなかったので、急遽Mod作って料理できるようにしたくらい。一度サバイバル系Modでひもじい思いをすると、そういうModを入れてなくても食料を手放せなくなります。それがたとえ大量のイモでも……(涙)