ひたすら薪を割り続けること数時間。
気のせいだろうか。夜が白みかけている気がする。
そして気がつけば、夜が明けていた。本当に、一睡もせず薪を割り続けていたようだ。
集中すれば徹夜作業もあっという間だな。
夜の間に割った薪は282本。製材所に現れたホッドがおはようを言う前に、彼の前に成果を山盛り積み上げてやった。
あとはイリアが割った薪の代金を合わせて勘定するだけだ。
ついに五千ゴールドが貯まった。これならイリアの母親の杖を、売らずに済む。好きにしてもいいと言ってくれた杖だが、むげに売るのも気が引けるからな。
感無量だ。私もその気になれば、まじめに仕事ができるのだ。一日しか持たないがな。
これでようやくリディアに合わせる顔があるというものだ。家なし従士の私兵という、世にも情けない立場から解放され、ドラゴンズリーチの居候暮らしにもおさらばできるのだ。
心は晴れやかだ。こんなにも心躍る気持ちになったのは、スカイリムに来て以来かもしれぬ。
何度か往復したリバーウッドとホワイトラン間の道も、これまでになく楽しく思える。遠くに霞むホワイトランの街並みすら、いつもと違って見えようというものだ。私もじきにあそこの住人になるのだから。
大金を握りしめ町の門をくぐり、家購入の手続きのためにドラゴンズリーチへ向かう。
宿無し冒険者としてあの門をくぐるのも、今日で最後なのだ。
道中、衛兵の心無い言葉が私の心に水を差す。
衛兵は情報通だと思っていたのだが、彼は知らないらしい。きっと新人だ。そうに決まっている。
なにしろ西の監視塔で一緒にドラゴン退治をしたのは、当のホワイトラン衛兵達だ。あの時の衛兵達はどこへ行ったのだろう。アルゴニアンがドラゴンボーンだったと皆に伝えてくれていてもよさそうなのに。
タロス像前の司祭は、今日も変わりなかった。私もここの住人になったら、時々ここへ彼の演説を聞きに来てもいいだろう。いっぱしの町人面をしてな。
首長の大広間で、相も変わらずごちそうをむさぼっていたリディアに声をかける。
さあ、ついに私も家を買う時が来たのだ。私兵として見届けてもらおうか。
リディアは私が金を貯めることを半分あきらめていたらしく、驚いた様子を見せる。
プロヴェンタスは、城のテラスでフロンガルと優雅にお茶を飲んでいた。
休憩中のところを悪いが、家購入の手続きをとってもらう。
貯めた金をプロヴェンタスに差し出し、ついにこの瞬間が訪れた。執政の雑なサインとともに家の権利書が私の手に渡ったのだ。私はもう、宿無し冒険者ではないのだ。
もはや私の喜びを止めるものは何もない。あとはただ、私のものとなった小さな家に帰ればいいだけなのだ。「帰る」とは、なんと甘美な響きか。記憶を失ってスカイリムに一人放り出された私も、自宅を持つまでになったのだ。
喜びのあまりドラゴンズリーチの下り階段から溜め池へダイブした私を、リディアとイリアがやや引き気味に見守っていた。
溜め池の水で、少し頭が冷えた。そしてベレソアの店の売り子の一言で、ダークライトタワーで脳腐病を患っていたことを思い出す。
この浮ついた脳は、病のせいだったのか。早めに薬を調達した方がよさそうだ。
いざわが家へと、鼻息も荒めに玄関の扉を押し開ける。
私の熱すぎる期待に対して、新しい家の歓迎は冷淡であった。ブリーズホームという名の通り、隙間風が家中に吹きわたっている。
2階の寝室の隙間風はさらにきつい。あれは屋根の穴か、それとも窓なのか。
「ブリーズホームは空き家として売りに出されてましたから」
購入をずっと後ろで見守っていたリディアが、おもむろにそう言った。確かに、プロヴェンタスはいい空き家があると言って、この家を私に売ってくれたのだ。
「空き家」つまり「家具付き」ではないということ。家がもぬけの殻であっても不思議ではない。かろうじて、前の住人が残してくれたベッドがあるだけでもありがたいのかもしれない。クモの巣だらけで、焚き付けにするしかなさそうだが。
家具をそろえるにはいくらかかるのだろうか。懐にはもう、百ゴールド余りしか残っていないというのに。
私は迷わず、イリアの母親の杖を売った。
再びノコノコと執政の前に顔を出し、家具をそろえる手続きを話し合う。
かろうじて購入できたのは、台所とロフトの内装のみだった。
「次は家具一式ですね、従士様」
ホワイトランの従士になるのは、実に金がかかる。脳も腐っているので、明日はどこかで薬を手に入れてこなければ。ヒストを信奉する私は、神々に健康祈願をしたくはない。
この日の晩、私達はがらんどうの家で食事をとり、眠った。石畳の床が痛かった。
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1. 懐かしい
自分も初めてスカイリムに、そしてホワイトランにやって来て家欲しさにひたすら薪を割ってはバナードメアの女将さんに売り飛ばして、でも短気な性分故に「こんなチマチマとやってられっかー!」と飛び出して手当たり次第にホワイトラン近辺の山賊のアジトに殴り込んでました。
それでも足りず、そしてたまたま近くに寄ったブリークウィンド水源でボスチェストを見付け「何かでっかいのがいっぱい居るけどサッと取って逃げりゃ良いっしょ(笑)」と近付きました。そして初の物理的にエセリウス直行便を味わいました←
その後は静かに、ひたすらに薪を割っては売るの繰り返しで家財道具を一気に買えるまで溜め込んだのも良い思い出です(遠い目)
故にブリーズホームは他のどの街の家やHFの屋敷よりも愛着があり、SE版はCSでもMODが使えると聞いて真っ先に探したのがブリーズホーム改築系のMODでした。今ではお気に入りのMODを入れてより快適なブリーズホーム暮らしを楽しんでます!
Re:懐かしい