南門から無事リフテンの町を抜けることができた。後はリバーウッドまで老人を送り届けるだけだ。
サルモールにまた見つかるのも面倒だ。街道を避けて、森の小道を使うことにする。
こういう森の中はオオカミやフロストバイトスパイダーの住処でもあるが、キナレスの加護を受けている今なら、彼らは友達だ。狼を狩るスパイダーを横目に先を急ぐ。
それにしても、どこかで仮眠をとりたいものだ。さすがの私も一休みしないと体がもたない。
しばらく先を行くと、朽ちた砦が見えてきた。
ここなら姿を隠してゆっくり休めそうだ。願わくば、昼まで休みたい。
この寄り道に、エズバーンは難色を示した。スカイリムには無人の砦など期待できるはずもないというのだ。多くは山賊か、怪しげな魔術師集団の巣窟になっていると。
それは一理あるが、この砦は外に見張りもおらず、人の気が感じられない。希少な無人砦なのかもしれないではないか。
扉の隙間から覗くだけ。覗いて面倒なものが見えたらすぐに引き返そう。
その目論見は非常に甘いものだった。扉を開けたすぐその先で、まさに事は進行中であった。
目の前で二人の魔女が魔法を撃ち合い、片方が絶命したその瞬間だったのだ。私の姿は、生き残った魔女に見られてしまった。
それだけなら、私はすぐに扉を閉めて砦から逃げ出しただろう。しかしまたしても予想外が起きた。魔女は涙を浮かべて私に助けを請ったのだ。
エズバーンの言う通り、確かにこの砦は悪い魔女達の巣窟だった。しかしこの魔女は、それから足を洗いたいという。幼い頃からここで生まれ育ってきて、仲間達のしていることが理解できないでいたが、成長するにつれ理解し、恐ろしくなったらしい。どうやら様々な本の中に登場する「普通の人々の暮らし」が自分達のものとかけ離れているのを知り、立派な英雄が登場する本で、「悪いこと」とはなにかを知ったというわけだ。
子の心も知らず、彼女の母親は、生贄を捕まえてくるよう彼女に命じたという。
このまま生贄を探しに行くふりをして行方をくらませてもよかったのだが、それだと魔女達の悪行が野放しになってしまう。まして母親に、もうあんなことは続けさせてくないというのだ。
扉の扉を開けたら、うら若き魔女に人生相談と助力を請われたというところか。
旅をしているといろんなことに遭遇するものだ。
私はともかく助けを約束し、その前に朝食をとる時間をいただくことにした。
リフテンを慌ただしく出発してしまったので、ろくな持ち合わせがない。キャベツとハチミツ酒で、魔女退治の腹ごなしになるだろうか。
エスバーンの愚痴は、放っておいた。
キャベツの力を侮るなかれ。
水分でも腹が満たされれば、胃は満足する。さっさと終わらせて、当初の目的である昼寝をさせてもらうぞ。
ひと暴れすると、すぐに腹が減ってきた。やはりキャベツではだめか。しかもこの状態でハグレイヴン退治までやらねばならない。そういえば、彼女の母親はハグレイヴンになる儀式をやりたがっているそうだ。その為に生贄が必要というわけか。
ハグレイヴンは、魔女なら誰もがいつかはなりたい憧れの最終形態らしい。見た目はともかく、魔力が格段に上がるのだそうだ。
ひとまずフロストブレスで相手の炎魔法を封じつつ、エズバーンと共に退治する。
なかなか歯ごたえのある人助けだ。ブリークフォール墓地探索よりきつい気がするのは気のせいか。
エズバーンはそら見ろと言わんばかりだった。彼としては一刻も早くデルフィンと再会したいのだろう。
道中、ベッドロールを見つける。今あそこで横になれたら、どれだけ幸せだろうか。
魔女達はスパイダーやスキーヴァーを手なずけていた。ペット化された彼らはキナレスの手を離れているのか、彼女の加護は効いていないらしい。手ひどく引っかかれて病気を移されてしまった。
イリアが診てくれ、脳腐病とその場で診断された。マジカに影響する病らしい。少なくとも私には緊急性のない症状だな。魔法使い達にとっては困った病気だろうが。
キャベツひと玉だけ詰め込まれた腹が、ついにぐうぐう鳴り出した。道中魔女達の食料を少しいただいたので、昼食にしたいのだが。
どうやら残った魔女は彼女の母親だけらしい。母親を殺してでも止めたい娘を前に、食事などとのんきなことは言い出せない。最後まで付き合うとするか。
砦の裏手で母親は待っていた。娘の生贄を連れてきたという嘘を、全く疑っていない。
難しいものだ。イリアの言う通り、母親は改心してくれそうには見えない。
私はあくまで金で雇われた被験者の振りをして椅子に座った。座り心地が悪いのは、当然ながら椅子のせいではない。さて、どうしたものか。
儀式を始めようとした母親の背後で、イリアが魔法を構えた。
子に親を殺させるのを黙って見ているつもりはない。イリアには申し訳なかったが、とどめは私が容赦なくささせてもらった。バックドロップで。
彼女自身がとどめを刺した方が、その場での踏ん切りはついたのかもしれない。しかし後々生涯にわたって必ず後悔することになるだろう。
落ち込むイリアを一人残していく気になれず、近くの町まで送ろうかと声をかけた。彼女は空元気を出して同意した。
エズバーンは賛成しかねているが、反対もしなかった。これまでずっと隠れ潜んでいた彼は、どこの誰ともしれない人間を信用できないのだ。
しかしこれまでの経緯を見れば、少なくとも彼女はサルモールと関係はないだろう。それに、元魔女だという秘密も持っている。お互い、それぞれの身の上に関しては共感して口を閉ざしておけるのではないだろうか。
砦で休む算段は外れた。この際、その辺の木の下で寝ても構わないか。
そう考えながら山道を下っていると、崖の下にオーク要塞が見えた。あそこで宿を請うなどはできないだろうか。そう期待しながらよくよく様子をうかがっていると、どうも騒がしい。門のあたりで暴れているのは、巨人か。
本日二度目の人助けになった。どうしてこう休みたいときに限って、緊急性の高い人助け事案が起こるのだろう。
私は霊体化のシャウトで崖から飛び降りた。要塞に着地すると、禁じ手でもある氷晶のシャウトを巨人にぶつける。とにかくあれの動きを今すぐ封じないと、オーク達の命がなかったのだ。
オークの戦士はすでに一人が巨人によってぺしゃんこに潰されていたが、生き残った戦士達はまだ奮闘していた。彼らは氷晶のシャウトで動きを封じられた巨人に果敢に立ち向かう。
そして巨人にとどめを刺したのは、山の上から追いついてきたイリアの氷魔法だった。
さて、私は宿を請おうとオーク達に声をかけようとする。巨人退治に手を貸したのだから、その程度を要求する資格はあるだろう。すると、向こうから先に声をかけてきた。しかしそれは助太刀の礼ではなかった。
その腕を見込んで、折り入って頼みがあるのだという。どんな問題も自分達の力だけで乗り切ろうとするオークにしては珍しい。
結局、オーク達の話を最後まで聞く羽目になってしまった。しかも魔女から足を洗ったばかりのせいか、善行に飢えているイリアが後ろで興味津々に聞いている。
背後から注がれるプレッシャーに、小さな子供に「良いこと」の手本を示さねばならない親の気持ちになった。そして私はついつい、巨人害に悩むオーク達を助けると答えてしまうのだった。
経緯はどうあれ、これで今日の宿は確保できた。時刻は昼過ぎ。休むには少し早い時間だが、昨日から一睡もしていないので、これくらいの休息は必要だろう。
それにしても、一つ仕事を片付けるたびに、二つ新しい仕事に遭遇してしまうな。どれかの仕事で現金が手にできればいいのだが。
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1. まさかの
バグで一度フォロワーにした後で解雇してしまうと二度と誘えなくなってしまう、しかしあの塔にボッチで居させるのは可哀相なので、モーサルの土地に建てられる家(名前忘れたorz)に連れてって執政と言う名目で新たな住み処に住まわせたのは良い思い出です。
Re:まさかの