ラットウェイ・ウォーレンズには、すでにサルモールの手が及んでいた。
だが彼らも目下、エズバーン捜索中のようだ。
さあ、大使館で大暴れしたアルゴニアンが来たぞ。ここでも大暴れしてやろう。
ラットウェイのネズミを掃討するとしようか。
ウォーレンズを捜索するサルモールは、一部隊だけだった。彼らを始末すると、陰気な下水道深部はしんと静まり返った。ここにも悪漢のなれの果てみたいな連中が巣くっているのではと思ったのだが、そういう連中はすでにサルモールが片づけていたらしい。
悪党達が集っていたらしい場所も、がらんとしている。
さらに深部へとやってきた。ここには人の声が聞こえる。聞こえると言っても、聞かない方がいいようなつぶやきだらけだが。どいつもこいつも、シェオゴラスにさえ見捨てられていそうな者ばかりだ。
この男は一人黙っていた。唯一まともそうに見えたので、エズバーンを知らないか尋ねてみる。
彼は重々しく口を開いたが、出てきた言葉は質問への返答ではない。私の言葉は彼の耳には届かず、別の質問となって理解されたらしい。彼は私を見ながら、一人で自問自答を始めてしまった。
近くのテーブルに帝国軍の兜があるのを見るに、彼は元兵士だったのだろうか。しかもあの兜は隊長クラスのものだ。
元隊長をその場に残し、他の連中の姿も確かめてみる。
刃物を研ぐコックの姿はいいとして、地面にやたらと血だまりができているのはなかなか脅しが聞いている。近づかない方がよさそうだ。
最後の部屋を覗と、ここだけやたらと厳重な扉がついていた。
中の住人は老人だったが、自分は危険人物だから近づかないよう警告してくる。
試しに、デルフィンから聞いた「降霜の月30日」の合言葉をかけてみた。警戒を解いた老人は、言葉の意味を知っていたらしい。
彼こそがエズバーンだった。何重にも鍵の掛けられた扉を開け、私を中へ招き入れてくれた。
なかなか居心地のよさそうな空間だ。
この老人も、自分が最後のブレイズだと考えていたらしい。デルフィンの無事を聞くと驚いていた。
しかし彼はここから出る気はないという。世界がもうすぐ終わるのだからと。
さすがはブレイズの学者といったところか。
エズバーンはアルドゥインについて十二分に知っているようだ。彼はあの竜の危険がいかほどの物かを私に話してくれた。
だが世界が終わると言われても、突拍子がなさ過ぎてどう信じてよいのか分からない。
ドラゴンボーンだけがそれを止められるという。
なら、私が止めてみようか。なにをどうすればいいのか知らないが。
当然だが、エズバーンは私がドラゴンボーンだとはにわかには信じられないようだ。
ここからリバーウッドに行くまでに、ドラゴンに会えるといいかもしれないな。もっとも私自身は、彼に疑われようが信じられようがどちらでもいい。デルフィンとの仕事をさっさと終えたいだけだ。
私が出発を告げると、エズバーンは荷づくりをはじめた。やはり本の類は大切なようだ。それに、サルモールに対する彼なりの調査記録もあったらしい。
荷造りをする彼に、「降霜の月30日」について尋ねてみた。どうやらこの日は、サルモールが帝国に休戦協定を持ち掛け、帝国が受け入れた日だという。しかし実際にはサルモールに有利な協定で、彼らはブレイズの首を休戦の見返りとして要求した。つまりこの日は、ブレイズの本拠地がサルモールに攻撃され、皆殺しにされた日でもあるのだ。
本拠地にいながらそれを生き延びたのが、エズバーン一人だったらしい。
学者と言えど、さすがはブレイズ。
エズバーンはかなりの魔法の使い手だった。サルモールの応援がラットウェイをうろついていたが、彼のおかげでずいぶん楽に突破することができた。
リフテンの下水道というより、狂気の下水道という呼び名がふさわしいウォーレンズから、ラグド・フラゴンに舞い戻る。ろくでなしばかりがいる酒場だというのに、まるで人間の世界に戻ってきたような喜ばしい気分だ。
さて、地上まであともう少しだ。時間の感覚がすっかりなくなってしまっている。今は何時だろうか。
サルモールの応援も途切れているようだ。この隙に地上へ急ごう。
どうやら地下で長く過ごしすぎたようだ。すっかり夜が明けている。しかしまだ朝早い時間で、人々は家で朝食でも食べている頃合いだ。
市場の方に行くと、例のカジートがまだ待ち伏せしているかもしれない。
幸い、下水道の出入り口はリフテンの南門に近かった。北門に比べると、圧倒的に人通りがない。
私はエズバーンを呼び、こちらの門からそそくさとリフテンを後にした。徹夜のおかげで体が重い。どこか安全なところでひと眠りできればいいのだが。
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