今日から降霜の月だ。
ただでさえ寒いスカイリムの気候が牙をむく季節ではあるが、連れの若者は朝から霜を溶かすほど過熱気味である。
なにしろ今日はいよいよ山賊退治ができるのだから。
ホルテッド・ストリームの野営地は、ホワイトランの北を少し行ったところにあるらしい。旅が順調に進めば、昼過ぎには野営地に到着できるだろう。そこでひと暴れしてホワイトランへ向かい、夜にはバナードメアで熱いハチミツ酒を飲む算段だ。
昨日と引き続き、前半は街道沿いののどかな旅である。
途中、ホワイトランへ向かう旅の吟遊詩人に出会った。タルスガルだ。前にも姿を見た気がする。
彼のように自分の旅や冒険を歌にする生き方は、エリクも憧れたことがあるらしい。音痴なのであきらめたらしいが。
タルスガルをいっときの道連れに、ドラゴンブリッジが望める地点までやってきた。
野営地へはこの辺から道を北にそれた方がよさそうだ。
ドラゴンブリッジを目印に、北、もしくは私が北だと思う方向へ道なき道を行く。
なに、ホワイトランは平原で見通しがいい。多少方向がずれても、丘の上に登って見渡せば、野営地が見つかるはずだ。
のんびりとしたハイキングは、通りすがりのウィザードのおかげで突然終わった。
なんの警告もなしに襲ってきたところを見ると、被検体探しの死霊術師かなにかだろう。私とステンヴァールで組みかかれば、すぐに片がつく。そう思っていたのだが。
初戦闘とばかりにエリクが一番に飛び出した。鎧を身に着けていないせいもあるが、なかなかすばしっこい。
農村の宿屋の息子はすごかった。
ウィザードの炎魔法もものともせず、使い古した鉄の剣でひたすら斬りつける。慌てたのはウィザードの方だ。魔法の盾すら展開するのも間に合わない。
十秒と経たないうちに勝敗はついた。
聞けばこの若者、村に時々やってくる山賊を、衛兵たちと一緒に追い返したことはあるという。ということは、かなり戦いなれているのか。躊躇なくウィザードにとどめを刺していた……。
殺しが初めての人間なら、葛藤とか戸惑いとかがあってしかるべきだったろう。
この若者、実はかなりの戦力になるのではなかろうか。
予想外の強さに感心しつつ、なかば放心しながら、まもなく目的の山賊野営地を発見した。時刻はちょうど十二時半。昼食は仕事が片付いてからにする。
ウィザードとの戦闘で剣を振るい損ねたステンヴァール。
野営地にうろつく山賊の姿を見て、上機嫌で両手剣を引き抜いた。それではちゃんと死んでくれる山賊どもを始末しにかかるか。
エリクはもう、好きにさせることになった。あれは自分で自分の面倒が見れる若者だ。
ステンヴァールの意気込みもつかの間、またしてもエリクは獅子奮迅の活躍を見せた。
鎧を着ていないから、とにかく足が速いのだ。
重装鎧をガチャガチャ言わせて走る私達の脇をすり抜けて、早速山賊の一人に剣を突き立てた。
見事である。
さらに息つく間もなく、山賊のウィザードめがけて剣を振りかぶる。
かろうじてステンヴァールがエリクに追いついたが、ウィザードのとどめはエリクに持っていかれてしまった。
野営地には鉱山らしき洞窟があった。山賊長はこの中にいるのだろう。
さすがのステンヴァールも、これ以上エリクに獲物を取られては欲求不満になると、一番に洞窟へ飛び込んだ。
私はもう、後ろから見ているだけでよさそうだ。
鉱山はさほど奥深くはなかった。
最後の空洞へ出ると、むせかえるような臭いが充満している。鼻にフタでもしたい。
どうやら山賊達はこの場所で、マンモス肉を解体しているようだ。どうやって穴の中に引き込んだのだろうか。落とし穴でもどこかに掘っているのか。
私達が踏み込むと、山賊らもそれぞれの武器をとった。
床は溶けたマンモスの脂肪まみれだ。山賊のウィザードがそこへ火を放ち、辺り一面炎に包まれる。
我らがエリクは、炎を駆け抜けまっすぐ山賊長へ向かっていった。しばらく応戦していた山賊長だが、若者の引くを知らない猛攻に耐え兼ね、洞窟の暗がりへ向かって走り出す。エリクがその後を追い、二人の姿が闇に消えたと同時に断末魔の悲鳴が上がった。
この若者、山賊長まで仕留めてしまったぞ。
ステンヴァールと私は、倒れた山賊長の遺体を検分した。
「いやぁ、見事だ」
ステンヴァールも私もそれ以外感想はない。重装備のおっさん二人は、今回ほとんど何もしていなかった気がする。
エリクは今すぐにでも、冒険者で食っていけるんじゃないかな。
昼食のリンゴをかじりながら、おじさん二人はただ感心するばかりであった。
いずれにせよこの戦いぶりを見れば、彼の父親も外の世界は危ないなどと心配しなくてよくなるだろう。想像以上に強すぎる。
昼食を終えた後、我々はホワイトランへ向かった。
エリクは自分の足でホワイトランまで来るのは、初めてだという。
野営地では、エリクに山賊の懐を探るよう指示していた。
見たところかなりたまったようだ。せっかくここまで来たのだから、貯金と合わせて新しい剣を買うのがいいだろう。
カジートキャラバンではオークの剣を売っていたが、少々高かった。
ホワイトランで武器を買うといえば、「戦乙女の炉」が定番か。スカイフォージのエオルンドを訪ねる手もあるが、彼の作る武器は少々割高だ。
店主のウルフベルスは、おすすめの武器をいくつか見せてくれた。エリクはあれこれ目移りしていた。まるで、子供をおもちゃ屋にでも連れてきた気分だ。
私は武器のことはさっぱり分からないから、ここはステンヴァールに見立ててもらった方がいいだろう。
結局エリクは、鋼の剣を購入した。ありふれてはいるが、癖がなく使いやすい。
価格は135ゴールド。余った金は、ロリクステッドに帰ってから父親に鎧を買う金だと言って渡すことにしたようだ。鎧も自分で買いたかったそうだが、そこは子を心配する親心を汲んで父親に選ばせたほうがいいだろうと言う。よくできた若者である。
どちらが大人か分からない。
プロベンタスから山賊退治の賞金を受けとった後、暇そうなリディアを誘ってみんなでバナードメアへ行った。
山賊退治の話を聞くと、リディアはいくら儲かったのか尋ねた。100ゴールドだ。それも今日の夕食代でほとんど消えるがな。
また大して金にもならない冒険をしてきた私に、彼女はため息をつく。ブリーズホーム購入はまだ先になりそうだ。
ちなみにステンヴァールは、宿に来ていた別の冒険者と殴り合いの喧嘩をしていた。発端は私が夕食に食べようとベイクドポテトをテーブルに落としたのがきっかけだ。なぜこれがきっかけになるのかは分からないが、ポテトが冒険者の気に障り、ステンヴァールがここぞとばかりに私の喧嘩を横取りしてくれた。山賊退治で暴れ足りなかったのだろう。
殴りあう二人の冒険者の怒号と共に夜は更けていく。
吟遊詩人ミカエルが赤のラグナルを歌い始めた。ロリクステッド出身の酔っ払いの歌か。
そういえばと、私はエリクに、ロキールという男を知らないかと尋ねた。ヘルゲンで一緒に捕まっていたあの男、たしかロリクステッドが故郷だと言っていた。
エリクは、残念だけど知らないと首を振った。
あまり目立つ人間でもなかったのだろうな。あそこで逃げたりしなければ、私みたく奇跡的に助かったかもしれなかったのに。不運な男だ。
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1. 無題
いつもながら引き込まれました。エリクもなかなか冒険者が板に付いてきたようで何よりです(笑)
私も皆が某狩りゲーをやってる中、何故か過去最高のスカイリム熱が押し寄せていてキャラ設定の事で頭がいっぱいです。uni様のMODを使わせて頂き、スカイリム中を旅していきたいと思います。
お身体に気をつけて、これからも応援しておりますm(_ _)m
Re:無題
別ゲームやってても、素材集めたり急な斜面をジャンプしながら無理矢理登ってると「ああ、これスカイリムでもさんざんやってたなぁ」と思い出して無性にまたやりたくなることが、私も結構あります。どんな生い立ちの主人公を作るかどうかで、やりつくしたクエストも全く新しい視点から味わえますからね。Modが世界観や遊び方を広げてくれるのも大きいように思います。どうぞ新しいスカイリムをまた楽しんでください~!