第四紀202年の第一日目……と思って目覚めたのだが、暦を見てさらに目が覚めた。
今日はまだ第四紀201年なのである。どうやら一年最後の月である星霜の月と、第10番目の月である降霜の月を間違えていたようだ。
本日は黄昏の月1日。第11番目の月にあたる。
起きろリディア。ドラゴンズリーチの首長殿に、新年のご挨拶ならぬ11月のご挨拶をしに行くぞ。
寒風吹きすさぶ早朝、広場のあのタロス司祭は相変わらずだ。
このフレーズも、もはや耳にタコができている。もはやタロス信者でなくとも、あの演説を通しで暗唱できるホワイトラン市民は少なくなかろう。
尋ねる時間がさすがに早すぎたのだろうか。
ホワイトラン首長は、朝ご飯ができるのを食卓で待っているところだった。
あいさつもそこそこに、単刀直入。
私は彼にドラゴン捕獲作戦について話した。あまりにも突飛な話に、驚くよりも冗談と取られてしまう。
しかしこちらが本気と分かると、彼も本気になった。
彼は最も現実的な話をした。スカイリムは内戦中なのだ。この忙しい最中、ドラゴンを捕まえて遊んでいる暇などないのだと。
しかしアルドゥインの名を出すと、首長はいったん現実の話をやめた。
神話だと思われていた存在が、現実どころか世界すべてを喰らいに現れたのだから。
彼はなかなか爽快なセリフを口にした。
この豪快な柔軟さは、いかにもノルドらしい。
彼は世界に迫りくる脅威も、私の使命も即座に理解してくれた。
しかし彼はあくまでも首長である。世界より、ホワイトランの安全が何よりも大事らしい。
話は現実的な方向に戻る。
ドラゴンが飛ぼうがアルドゥインが世界を喰らおうが、内戦がスカイリムを着実にむしばんでいるのも事実なのだ。
ドラゴンの脅威があってもなお、内戦は続いている。両軍とも、ドラゴンが都合よく暴れて、相手の戦力に痛手を与えてくれるのを期待しているのだ。
正気の沙汰とは思えないが、戦争ともなるとどうも物の考え方がおかしくなるものらしい。
ホワイトランの安全を確保するため、まずは両軍に停戦してもらう必要があるという。
そうすれば、ホワイトランはドラゴン捕獲作戦に集中できると。
問題は誰が停戦を提案するかだが、首長はグレイビアードが適任だという。
さらにハイフロスガーは中立地だから、話し合いもそこで行うのがいいらしい。
そうなると、今度は講和会議を開くためにグレイビアード達を説得する必要が出てくる。
これまで私が見る限り、彼らが下界を気にしている様子はなかったが。果たして会議などに興味を持ってくれるだろうか。
しかし、これについては私からグレイビアードに頼み込むしかないだろう。
……しかしドラゴンは止められても、内戦は止められない気がする。
所詮私はドラゴンの魂を吸えるだけのドラゴンボーンで、歴戦の英雄とはまた少々違うからな。
しかしリディアは先ほどから寛ぎまくりだな。朝ご飯をごちそうになろうというつもりか。
話もついたので暇乞いをというとき、玉座の頭上に飾られた骨が目についた。
かつてドラゴンズリーチに捕らえられたという、ヌーミネックスだ。
出来ればあの骨を下ろしてパーサナックスに届けてやりたいものだが。そこまで首長に求めるのも難しいか。
それよりも私が近づいてもヌーミネックスの魂を吸えないのが気になる。私より先にヌーミネックスの魂を吸ったのは、誰だったのだろう。
さて、謁見も終わり、グレイビアード達を訪ねる用もできた。
このまままたハイフロスガーへ行くのもいいが、気分転換にこれまでとは別の道順で世界のノドへ行ってみたい。
懐もゼロなので、小金を稼げる依頼など道中でこなせればいうことなしなのだが。
ベンチで油を売っていたら、いかにも困っていそうな司祭の溜息が聞こえた。
どうやら広場の中央にある巨木が枯れているのを気に病んでいるようだ。
彼女の話によると、この木はキナレス信仰の象徴らしい。
タムリエル最古ともいわれるエルダーグリームから採った若木から育てたとか。
親木の樹液を採ってくれば、枯れ木が蘇るとな。
これは旅をしながらこなすのによさそうな案件だ。支払いがいいなら、乗らせてもらおう。
ところが樹液を採るには、専用の刃物がいるらしい。
その刃物は、汚れた魔女ハグレイヴンがスプリガンを捌くのに使う物らしい。
お隣の奥さんにお砂糖を借りる感覚で借りに行けたらいいものだが、そうもいくまいか。
お礼はたいして期待できないが、キナレスゆかりの木を助けられるのであれば、そうしょう。
キナレスとカイネは同じ女神を指すとも言われているし、そうでなくとも何らかのつながりがあるらしいし。ドラゴンボーンにとっては、大切な神様だ。
となれば今回は、リバーウッドを越えてヘルゲンを通る道を使って世界のノドを目指そう。
ヘルゲンを過ぎたあたり、いつだったか私が山賊の待ち伏せにあった場所辺りからハグレイヴンの住処に行けるはずだ。
昼過ぎ、ドラゴンや山賊に遭遇することなく、リバーウッドまで到着する。
あまりに平和な道のりだったので、アルドゥインが世界を喰らいつつあるという危機感も内戦のことも、すっかり忘れてしまいそうだった。
今夜はスリーピングジャイアントで休む予定だ。
そのためには、しっかりと宿代を稼がねばならない。ここはひとつ、リディアにも薪割りを手伝ってもらおう。二人で薪を割れば、今夜はふかふかのベッドで休めるだけでなく、豪勢な夕食もついてくるぞ。
リディアには桟橋近くの薪割り台をあてがったが、ちゃんと仕事をしているだろうか。
どうも川を見て遊んでいる時間が多い気もするが……。
夕方18時に薪割り終了。
ブラブラいている姿が目立ったものの、思いのほか真面目に薪割りをしてくれていたようだ。42個とは、なかなかだな。
ちなみに脇目も振らず黙々と割り続けた私の結果は92個だ。
……今夜のハチミツ酒、リディアは1本で、私は2本いただくとするか。
ホッドに薪を売り、空っぽだった財布に金貨が満たされた。
これで当分の食費は安泰だ。
スヴェンの歌は久しぶりに聞く。
微妙な歌声を肴に、温かいハチミツ酒と鹿肉、キャベツ一玉で腹を満たす。
オーグナーは相変わらずエールを腐らせてばかりいるのだろうか。夕食のメニューに、エールは並んでいなかった。
明日はヘルゲンを通り過ぎて、ハグレイヴン退治だ。
私のシャウト引き撃ちと、リディアが振るう両手斧があればきっと苦戦はしないはず。
そう願いつつ、リディアには食後のリンゴ包みパイを奮発しておいた。他意はない。
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