ハイ・フロスガーの中庭から山頂への道へ。
一寸先も見えない猛吹雪を晴天の空のシャウトで払うと、奇しくも晴れ渡った夜空にオーロラがたなびいていた。
美しいが、これから山頂で行うことを思うと不吉な予感もする。
氷の精霊にてこずりながらも世界のノドへ。
パーサーナックスがオーロラの空を背景にこちらを待っていた。
ドラゴンとオーロラ。
私に絵心があれば、この荘厳な風景を描き留めることができたのだが。
星霜の書を手に入れたことを告げると、パーサーナックスは満足げにこう告げた。
星霜の書は常にあるべき場所にあり、誰かの手中に収まるのであればそれはあらかじめ定められた運命なのだと。
時とつながりの深いアルドゥインが、運命の動きつつあるこの時を見逃すことはない。
パーサナックスは私を急かした。
せかされるまま、時の傷跡の位置へ立つ。
星霜の書を手にしているためか、傷跡の不思議な輝きが以前より増しているようにも見える。
それではいざ、星霜の書を拝見だ。
私は全くの無防備で書を開いた。禁断の書とはいえ、書は書だ。何か難しいことが難しい字で書かれているのだろうと、たかをくくっていた。
しかし書にかかれていたのは、不思議な魔方陣だった。
一瞬で目がくらみ、気が付くと魔方陣越しにドラゴンの姿が見えた。雄々しい姿ではあるが、アルドゥインではない。
普通のドラゴンが、ノルドの戦士二人と戦っているところだった。
戦士二人のうち、やたらと威勢のいいのがこのゴルムレイスという女性だ。
ハコンという戦士が引いた隙にドラゴンの頭部へ突っ込み、剣をお見舞いして倒してしまった。
辺り一面、ドラゴンの死体と人間の戦士達の死体だらけだ。
ハコンはゴルムレイスに疑問を投げかける。このハコンという戦士は、戦いに嫌気がさしているらしい。
二人の戦士が話し合っていると、新たに一人の老人が視界に現れた。
辺りの風景を察するに、どうやら私はずいぶん大昔の山頂で繰り広げられた戦いを見ているらしい。
そしてこの三人。
以前どこかでこの三人の姿を見たように思う。どこだったろうか。
思い出そうとしている間にも、彼らの話し合いは進んでいる。
ゴルムレイスがドラゴンレンドの言葉を口にした。
思い出した。この三人こそが、リーチ地方にあったアルドゥインの壁に描かれていた人物だ。
つまり私は、アルドゥインがドラゴンレンドに倒されるその当時を、時の傷跡から見ているのだ
ノルドの英雄であろう彼らですら、アルドゥインを倒すのは無理だと考えていたようだ。
血気盛んなゴルムレイスを除いては、だが。
そしてフェルディルは一本の巻物を取り出した。
それは今私が手にしている巻物と同じ、星霜の書だ。
禁断の一手として星霜の書を持ち出したフェルディルに、ハコンは異を唱える。
この戦士、ノルドにしてはずいぶん考え深くて慎重だ。
そして彼らがアルドゥインをどう倒すか揉めているうちに、当のアルドゥインが飛来する。
多くのドラゴンを殺され、アルドゥインは立腹していた。
しかしこれが三英雄の狙いだったらしい。
攻撃のために空へ飛び立ったアルドゥインめがけ、彼らはシャウトを放った。
これまでとは違う、全く聞きなれないドラゴン語だが、私はその言葉をすんなり吸収した。
これこそがドラゴンレンドだ。
彼らのシャウトが、アルドゥインを地上に引きずりおろす。
アルドゥインでさえ、それには当惑を隠せない。人間がドラゴン語にないドラゴン語を作り出し、それに当のドラゴンが屈服されてしまったのだ。
これにはアルドゥインも怒りに我を忘れるほどだった。
地上戦で戦い始めたアルドゥインに、三英雄達が立ち向かう。
アルドゥインを正面きって倒そうと意気込んでいたゴルムレイスにとっては、狙い通りだったかもしれない。
ただしゴルムレイスの誤算は、彼女がアルドゥインを倒すには少々弱すぎたということだ。
アルドゥインは、いとも簡単に彼女の頭に噛みついて、彼女をどこかへ投げ捨ててしまった。
ドラゴンと戦うときは、決して連中の鼻先に立ってはいけないとあれほど言われているのに……。
ある意味主戦力だったゴルムレイスを失い、ハコンはアルドゥインに勝利するのが無理だと悟ったらしい。
フェルディルに星霜の書を使えと叫んだ。
ハコンが食い止めている隙に、フェルディルが星霜の書を掲げる。
フェルディルは星霜の書を使い、アルドゥインを自分達の時代から切り離す荒業を行った。
何が起きているか気づいたアルドゥインがフェルディルに炎を吹き付ける。
しかし少なくともその程度の炎では、星霜の書が燃えるはずもない。
個人的にはフェルディル自身もあの炎を絶えたのが意外だったが、フェルディルは最後まで書を掲げ続けた。
書によって時から切り離されたアルドゥインがその姿を消す。
それは勝利ではなかったが、世界が救われた瞬間でもあった。
なぜ救われたかといえば、それはいわゆる「問題の先送り」が大成功を収めたからである。
少なくともドラゴン戦争があった大昔に世界が終わらなかっただけでも、後世の我々はよしとせねばならないのであろうか……。
世界の終わる時期が、後の時代にずれ込んだだけ、ましだったと思わなければならないのだろうか。
そして過去の三英雄が先送りにした問題を、私一人でどうにかしなければいけないのであろうか。
あまりの重責に呆然としている間に、再び星霜の書の魔法陣が強く輝いた。
気が付くと、私の視界は現代の世界のノドをとらえていた。
そして過去の世界から消えたアルドゥインが、姿を見せている。過去とは違い、かなりの余裕を見せながら。
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