代4期201年降霜の月29日、ブラックリーチ二日目。
今日から本格的なブラックリーチ探索になると言ってもいい。光るキノコが幻想的な巨大空洞だが、ここで新年を迎えるようなことにならないよう祈る。
さて、今日はどの方面を探そうかと考えてみる。実際にはすでに方角を見失っているので、これまで見たことのない景色をひたすら辿ることになりそうだ。
昨日何となく避けていた、ウィスプが彷徨う水辺へ立ち入ってみた。
果たしてこの連中は、地上をさまよっているウィスプと同種のものだろうか。
ウィスプを倒してただの玉にすると、ウィスプマザーが現れた。
あれは精霊の一種なのか、アンデッドなのか。いずれにせよ、こんな地面の中にも出るものらしい。
ウィスプマザーを倒した後は、クモだらけの塔を探索したりもした。
カイネの加護のおかげで、彼らは私達の友達だ。なんら危険なく探索を終えることができた。
見つけたものといえば、クリムゾン・ニルンルートくらいだ。
ブラックリーチの底に青く光る地底湖。ここにもムザークの塔らしきものはない。
ただし景色はなかなかのもので、同行するカトリアも感動しきりだ。生きているうちに見たかったそうである。
うろうろしている間に、また巨大な太陽がぶら下がる建物まで戻ってきてしまった。
よく見ると、建物の正面に面した街道に、昨日見たドラゴンが居座っている。あれは、この建物を守っているのだろうか。それとも、あの巨大照明を守っているのだろうか。
このブラックリーチにいる限り、地上のドラゴン騒動には関係ないであろうから、あえて倒す気にはなれない。見つからないよう迂回して行こう。
ドラゴンを迂回して行った先。
意味深な塔を見つけた。先がブラックリーチの天井を貫いて伸びている。
どうやらこれが、目指すムザークの塔らしい。
塔の中はどうなっているのだろう。
入り口から続く暗い廊下を行くと、ドゥーマーランプに照らされた小さな部屋があった。
部屋の中央にはキャンプの跡がある。これはかなり古いものなのだろうか。
誰かがここへやってきて、しばらく住んでいたようだ。部屋の中はまるで研究室のようにきちんと片付けられていた。
そうなると、気になるのはこの部屋の住人である。姿がないので、奥の方にいるのであろうか。あるいは、またシンデリオンのようなことにでもなっているのだろうか。
小部屋の奥には、これまで見たこともないような巨大装置が設置されていた。
これは何をするものだろう。
装置の周りを調べていると、小部屋の主を発見する。
死者に口無し。しかし傍らに残されていた日記がこの人物の最期を物語る。
日記に書かれている目のない化け物達はファルメルのことだろうか。カトリアに言われるまでもないが、ドゥーマー遺跡探索での最大の障害は、ドゥーマーの残したオートマトンや罠などではなく、ファルメルで間違いない。
このドロクトという人物は装置の謎を解けなかったらしいが、私達ならいけそうだ。なぜなら装置を動かす尖った箱を、セプティマスから預かってきたからだ。
装置のてっぺんに、箱をセットする台があった。
セプティマスの箱をセットすると、装置の操作ボタンが起動する。
装置の天井からはかなり強い光がある。あれは外からの光なのだろうか。それとも、ドゥーマーお得意の、奇抜な照明で強く照らしているだけなのか。
残念ながら私達は冒険者だ。装置への理解は必要なく、結果さえ得られればそれでいい。
ボタンを適当にバシバシ押してみるが、機械は一向にそれらしい動作を始めない。
カトリアが言うには、正しくボタンを押せている時だけ、セプティマスの箱が「開く」仕組みになっているようだ。
さすがはドゥーマー学者。生きていたらきっと私達を押しのけて、自分が一番にこの装置に触りたかったに違いない。
箱の挙動を確認しながらボタンを押す。
するとついに、機械のレンズが一つに重なった。
そして中央の巨大な石が降りてくる。
石が真ん中から真っ二つに開き、中から巻物が出てきた。
同時に、開いていた箱も閉じる。しかしその様相は前とは違っていた。奇妙な青い光が内側からにじみ出ている。
役目を終えた箱を取り上げ、中央の巻物へと近づいた。
これが星霜の書か。するとこの装置が、星霜の書を読まずして中身を取り出す機械というわけか。そしてセプティマスの尖った箱の中に、この星霜の書の内容が刻み込まれたのか。
よく分からないが、これで目的のものを手に入れられたようだ。
ムザークの塔には、地上に通じるエレベーターもあった。すぐに出られたのはありがたい。
ずっと青白い洞窟にいて時間の感覚がなくなってしまっていたが、外はまだ明るかった。
さて、ここはどこだろうか。
外に出られたのはいいが、人里遠く離れた場所だと、それはそれで困る。
人に道を尋ねたいのだが、巨人しかいない。しかし巨人の野営地があるということは、ここはスカイリムのどこかである可能性が高い。なによりこの寒さが、スカイリムの証明であろう。
高くて見晴らしのいい場所を探して走る。
そして雪深い針葉樹の林を抜けた。
抜けた先には、思いがけず馴染みの風景が広がっていた。
いつの間にか、ホワイトラン近くまで来ていたようだ。これはいい。帰る手間が省けたというものだ。
ホワイトラン郊外の農場の前まで来ると、もう喜びを隠せない。
自分のことは根っからの冒険者だと思っていたが、すっかり自宅というものの虜になっている。
ここはもう、私にとって故郷と呼ぶにふさわしい場所なのかもしれない。
ホワイトランに戻ると、真っ先に酒場を訪ねた。
まずはブラックリーチから無事に生還できたことと、星霜の書を手に入れた祝いをせねばなるまい。
酒で散財する前に、1ゴールドをルシアに渡しておく。お祝いのおすそ分けだ。これで今夜はうまいものを食うといい。
すばらしい大冒険だった。ブラックリーチまで潜った冒険者やドゥーマー学者は少なかろう。
今回の冒険譚を語れば、マーキュリオやヴォルスタグはドゥーマー学者からの護衛依頼が殺到するはずだ。
もっとも本人達は、スラ率いる調査隊一行の二の舞になりそうだから御免だと話していたが。
バナードメアでたっぷり飲み食いし、深夜に自宅へ帰る。
リディアは私が生きて戻ってくると思っていなかったのか、そこはかとなく残念そうに出迎えてくれた。
面倒くさそうに、「またお目にかかれて光栄です」と。
イリアは……。
私の姿を見て、夕食の準備を始めたようだ。もうたっぷり食べてきたが、せっかくだから夜食をいただくとしようか。さすが、正義の道を歩み始めた魔女だ。パン食い従者などよりはるかに優しい。
今は亡きスラ調査隊から回収した日記を、全て本棚にしまった。これらは機会のある時、マルカルスのカルセルモにでも見てもらおう。目新しい話はないかもしれないが、ファルメルの恐ろしさだけでも再認識する価値はある。
そして明日は、星霜の書をもって時の傷跡へ戻る日だ。アルドゥインを地上に引きずりおろす、シャウトを学びに行かねばならない。
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