ヌチュアンド・ゼルへの入り口は、砦内部にあった。
もしかするとマルカルスは、ヌチュアンド・ゼルの地上部分にある都市だったのかもしれない。
扉をくぐると、見慣れたドゥーマー遺跡の景色が広がっていた。
直線を主体とした床や柱の模様。青白い照明と、蒸気機関から漏れ出るスチームの音。ドゥーマーははるか昔にいなくなっても、彼らの作った機関は休まず動き続けている。罠だって健在だ。
しかしこの辺りでは罠の心配はないだろう。ニムヒが出る直前まで発掘調査が行われていたようで、危ない罠も撤去されているはずだ。
しばらく進むと遺跡の壁が尽き、岩盤を掘った竪穴が現れる。
穴の底に掘られた横穴から、蜘蛛の歩く音が聞こえるようだ。
穴を探ると、小さな蜘蛛が何匹かいた。
ここで蜘蛛を殴ればまた「空の声」の恩恵を失ってしまうが、仕方ない。まずはニムヒの子供たちを始末するとしよう。
最奥の開けた場所で、ニムヒとご対面だ。
周りの様子こそ違え、ブリークフォール墓地で遭遇した巨大蜘蛛を思い出す。あの時は、蜘蛛の巣にとらえられた逃げ足の速いダンマーが、奥のほうにいたな。
ニムヒはそれなりに手ごわかったが、こちらは三人だ。
ヴォルスタグと私が前に出て戦い、マーキュリオが遠くから雷撃で狙う。なかなかのコンビネーションだ。
戦いはすぐに終わった。これが楽勝というものか。
ニムニを倒したことを伝えに戻れば、依頼は達成したことになる。しかし非常に気になるものが、目の端に移ってしまった。
俺を見つけてと言わんばかりに、照明の真下に倒れている帝国兵……。しかもその手元に意味ありげな手紙……。
手紙の内容は、ヌチュアンド・ゼル遺跡調査隊とでもいうべき一行についてのものだった。
カルセルモは、彼らについて把握していたのだろうか。
このアレウシスとかいう帝国兵のみずみずしい遺体の状態からして、ニムヒに殺されてそれほど時間がたっていないはず。奥へ行ったかもしれない研究者達の安否が気になるな。
全くドゥーマー研究者どもというのは世話が焼ける。急げば何人かは助けられるかもしれない。
私達は蜘蛛の糸をかき分け、ヌチュアンド・ゼルの遺跡内部へ進入することにした。
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