イヴァルステッドの廃屋にいた男は、とても混乱しているようだった。話しかけたのを後悔する。
しかし、誰かがいなくなったというが、いつの話だろうか。人探しなら傭兵の得意分野だ。怪しい洞窟の中でも山賊砦でも、探しに行ってやれるぞ。
男は必死に説明してくれようとするが、どうも要領を得ない。
ウィルヘルムが「すぐに戻る」と言って彼を安心させたようだが、これ以上はウィルヘルムから聞いた方がよさそうだ。
近くの森がクマだらけだから、人がいなくなるとしたらそれが原因のような気もするが……。
嫌な予感が若干頭をよぎったが、話しかけた以上困った人を放っておくのも忍びない。
話してみると、ウィルヘルムも気にしていたようだ。だがああ言うしかなかったらしい。
一年間行方知れずのままだとすると、もはや生存は望めそうにないな。
レイダは錬金術で家計を支えていたらしく、材料の採取で村を出ることがよくあったらしい。
ますますクマにやられた説が濃厚だ。そうでなくともスカイリムは山賊やクモだらけだ。
こういう行方不明者の捜索は、地元をよく知る衛兵にやってもらうのが一番だろう。
ナルフィには申し訳ないが、この仕事はなかったことにしようか。明確に依頼を受けたわけでもないのだし。
そう考えつつ村を出る橋でぼんやり東の島を眺めていた時だ。穏やかな川の流れの中に、矢が浮いているのが見えた。
アルゴニアンというのは、こういう時強みになる。
水中での捜索で我々にかなう者などいないからな。
しばらく水中をさらうように泳いだ。
きれいな川だ。世界のノドから染み出た水なのだから、「霊峰・世界のノドの銘水」などと名付けて、イヴァルステッドの名物にしてもよさそうだ。あの貧しいつつましい村も、さぞかし潤うと思うのだが。
……などと馬鹿なことを考えつつ泳いでいたら、白骨死体を見つけた。あの矢は、この骨に引っかかっていたのか。
まさかとは思ったが、骨の所持品をあさってみた。予感は当たり、レイダと刻まれた首飾りが見つかる。
他には採取したのであろう、錬金術の材料の残骸。わずかな小銭。
レイダは採取の帰りに何かがあって死んだらしい。もしあの矢が彼女の死因なら、狩人に誤射でもされたか。発覚を恐れて死体を川に捨てるのもありうる話だ。
そういえば、初めてグレイビアード達を訪ねて山を登った時、物憂げに標章参りをしている女狩人がいたな。標章参りをする理由を聞かれたくない様子だったが。……関係ないだろうな。
首飾りと小銭だけをもらっていくことにした。
ウィルヘルムにレイダがいたと伝えると、彼は大いに取り乱した。
すまない。見つけたは見つけたが、死体だと答えると、彼は肩を落とした。とにかくも、ナルフィに伝えてやれば、彼もあきらめがつくだろうと目頭を押さえる。
しかしナルフィは、レイダの死が理解できるだろうか。理解できたとしても、お別れが言えなかったことを深く悲しむのではないだろうか。
さんざん悩んだ末、彼にはレイダの首飾りだけを渡し、彼女はそのうち戻ってくるだろうと伝えた。
ナルフィもそれがいつかとは聞かない。彼なりに、何かを感じ取ったのかもしれない。
レイダから回収した小銭は、ナルフィの朽ちた暖炉の、空っぽの鍋に入れておいてやった。
何かの足しになるだろう。ウィルヘルムが面倒を見ているようだが、彼とてさほど裕福ではない。この小銭が食費の足しになればと祈ろう。
……しかしナルフィよ、25ゴールドももっているなんて、私よりも金持ちだぞ。
とんだ時間を使ってしまった。
時刻にして昼前。ようやくイヴァルステッドを発ってリフテンへの旅に出る。
森を歩くときは、狩人の流れ矢には十分気を付けないといけないな。
イヴァルステッドの森を抜けて湖畔沿いの街道に出ると。
狩人の流れ矢の心配はなくなったが、追剥に出くわしてしまった。
いつだったか。旅を始めて間もない時、今と同じ状況になった覚えがある。
100ゴールドの金を要求され、4ゴールドしか持たない私には、金を渡す選択肢も見逃してくれと懇願する選択肢もない。
どれを選んでも、盗賊の神経を逆なでしかしなさそうな答えだ。故に私は、以下の選択肢を新設したい。
> 金を持っているように見えるか?(逆ギレ)
金欠の冒険者に絡んだのが運のツキだ。
他の旅人の安全もある。ここはきつめのお仕置きをさせていただくことにしよう。
追剥に氷晶のシャウトを当て、アルゴニアンご自慢のひっかき攻撃をお見舞いする。
さて、最後のひと殴りだというところで、通りすがりの狼が追剥に噛みついた。
狼は追剥のノドを食いちぎり、私には目もくれずに去っていった。
世界のノドで得たキナレスの加護の賜物だ。野生動物が味方に付くというのは、なんと頼もしいことだろう。
この後の旅は至極順調なものとなった。
どこかで熊の雄たけびが聞こえることもあるが、彼らが私に襲い掛かってくることは決してない。
日もとっぷり暮れ、赤々としたマッサーが昇る頃、ようやくリフテンへ続く最後の橋を渡る。
しかしもって、リフト地方の追剥の多さには恐れ入る。
暗闇で仕事がしやすくなったとでも思っているのか、またしても追剥だ。問答無用で殴ることにする。
金のない私に、もう絡まないでほしい。追剥をしてでも金を稼ぎたいのは、むしろ私の方なのだ。
追剥を殴るのにももううんざりだ。
意外と防御力が高く、いくら殴っても倒れない追剥から逃げていると、前方から帝国軍兵士の一行が来るのが見えた。
これは幸い。彼らにこの不届き物を通報して、とっちめてもらおう。
ところがまたしても、近くの茂みから狼が飛び出してきて、帝国軍より素早くこの厄介者を始末してくれた。
帝国軍はというと、突然現れた狼に驚き、護送中のストームクローク兵の縄を手放してしまったらしい。
囚人のストームクローク兵は拳を振り上げ、森の奥のクマの吠え声が聞こえる闇の中へと疾走していき、帝国兵は一人が狼に食い殺され、残り二人は囚人を追ってそのままどこかへ消えてしまった。
皆さん大変忙しそうであったので、私は何も見なかったことにしてひとり旅路を急いだ。
助けようかとも一瞬思ったのだが、誰をどのようにして助けたらいいのかよく分からなかったのだ。
帝国軍も大したことがないな……。
リフテンのビーアンドバルブに着いたのは、深夜近くだった。この時間帯でも宿の酒場はかなりの人込みで賑わっている。
ひと先ず今日は休んで、明日魔術師風の傭兵を探すとしよう。
食事は軽めに、手持ちのエールとパンでしのいだ。なにせ懐は4ゴールドだ。
稲妻のように不安がよぎった。
……傭兵を雇うのにいくら必要だったか。
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1. 無題
あの人謎すぎですよね!今後疑いの目で見てしまいそうだw
Re:無題