世界のノドに登るのは何度目だろうか。
登山道にある標章にも忘れずに祈りを捧げていく。ここに刻まれたシャウトの歴史も、今回ばかりはかなり注意深く再読した。
この10基の標章に刻まれた物語の前半こそが、アルドゥインを打倒した人間達の記録だ。まさかこんなところに予言のヒントがあったとは。もっとも小さな標章に刻まれる言葉はいずれも簡単で短すぎ、すべての真実を明かしてくれるものではない。
標章のもっとも興味深い部分は、ドラゴンに支配される人間を哀れんだカイネの下りの部分だ。
カイネはパーサーナックスのもとを訪れ、その人物とともにシャウトを人間に伝授したという。
女神カイネはスカイリムで信仰を集めているが、パーサーナックスについてはとんと聞いたことがない。
スカイリム在住のエリクも聞いたことがないらしいので、パーサーナックスはその後人間達から忘れ去られたと考えていいのだろうか。
アルドゥインを空から引きずり下ろすシャウトは、カイネかパーサーナックスかのどちらかが人間に教えたのだろうと推測できるが、あくまで推測の域を出ないのも事実だ。グレイビアード達に尋ねるのが一番の近道で間違いなさそうだ。
さて、ハイフロスガーに到着した。
供物の箱には、これまで打倒したドラゴン達の骨と皮を収めておこう。グレイビアード達が適切に供養してくれるはずだ。
それにしても、だいぶ骨がたまってきたな。一体何頭のドラゴンを倒してきただろうか。数えていないから分からないが。荷物が重くて持ってこれなかった骨の分もあるしな。
さて、グレイビアード達はどこだろう。
祭壇にはいないようだ。
捜し歩いていたら、彼らの私室で全員の姿を見つけた。
どうやら昼食中だったようだ。さすがに霞を食って生きているわけではない。
食事中悪いが、パンをかじっていたアーンゲール師に単刀直入、アルドゥインを倒すシャウトについて尋ねてみた。
当然ではあるが、さすがの師もこれには驚いたようだ。つまり私がアルドゥインを倒そうとしている事実以上に、奴を倒すためのシャウトについて知りたがっていることに。
彼はすぐさま、これが私一人で思いついたことではないと気が付いた。そして、誰からそれを聞いたのかと逆に詰め寄った。
私がアルドゥインの壁から得た情報だと告げると、彼は即座にすべてを理解した。
ブレイズのことをグレイビアード達はよく知っているようだ。そして彼らのことをよく思っていなかった。
アーンゲール師に言わせれば、ブレイズは自分達がよく理解もしていないことに首を突っ込んでいるという。そして彼らはドラゴンボーンを智の道から遠ざけてきたとも。
確かにデルフィンなどはドラゴンを叩き潰すこと以外何も考えていないように見える。エズバーンもやり方こそ彼女と違うとはいえ、同じ考えでいるだろう。
彼らの目的がドラゴン憎し故のドラゴン虐殺であるなら、私の目的はアルドゥインが壊そうとしている人間らの生活を守りたいが故のアルドゥイン退治だ。彼らの言葉に賛同しているわけではない。
私が決してブレイズの言いなりに動いているわけではないと話すと、アーンゲール師も理解してくれたようだ。
しかしあれほど忍耐強いグレイビアードが抑制を欠くとは驚きだ。そんなにブレイズと仲が悪いのか。
どうやら両者はドラゴンボーンの扱いで決定的な違いを持っているようだ。
アーンゲール師曰く、ブレイズはドラゴンボーンに仕えるというが、そんなことは全くないのだそうだ。激しく同意する。今思い出しても、カイネスグローブのドラゴン退治といい、サルモール大使館の潜入といい、ぶっつけ本番死んだら死んだで仕方がない的なずさん極まりない作戦の中心へ投下されただけだった。一応デルフィンは下調べやら下準備やらはしていたはずなのだが、綿密に事が進められていたのはそこまでだったな。
ブレイズへの悪口が一通り出そろったところで、師はようやく核心に触れた。
「ドラゴンレンド」それがアルドゥインを空から引きずり落とすシャウトらしい。
しかしそのシャウトは、「声の道」にはないシャウトだという。当時ドラゴンの悲惨な支配に耐えかねた、ドラゴンへの憎しみにまみれた人間達のものであったと。
師は再びシャウトの原点に触れた。
シャウトは言葉ではなく、その言葉そのものだと。憎しみの中から生まれた「ドラゴンレンド」習得は、その増悪を身に取り込むに等しいと。
私が「揺るぎなき力」のシャウトを叫ぶとき、私自身が大きな力そのものとなるように、「ドラゴンレンド」もまた、ドラゴンへの憎しみそのものにならねば仕えないシャウトだという。
聞けば聞くほど、そら恐ろしい。ドラゴンレンドに込められた憎しみは、ブレイズのドラゴンへの憎しみと同じだ。それを習得してしまえば、私はアルドゥイン討伐だけでは飽き足らず、すべてのドラゴンを殺して回りたくなるのかもしれない。
若干決心が揺らぎかけた私に、アーンゲール師は思いがけない名を告げた。
パーサーナックスは、まだ存命なのか。神話時代にいた人物だと思うのだが。
彼は「声の道」の主となり、今では山の上で隠居しているそうだが。いつごろから隠居されているのか。数千年前からか。
それよりエリクが、いつの間にかアーンゲール師の椅子をとっていた。長い会話に飽きたか。これだから最近の若い者は……。集中力が足りん。
アーンゲール師は私のこともその問いも、パーサーナックスにゆだねることにしたようだ。彼のもとへ通じるシャウトを最後の手向けに教えてくれるという。
グレイビアード達全員が、ハイフロスガーの庭園へと私を導いた。
庭園の奥の門は山頂へ通じているようだが、すさまじい吹雪で先が見えないありさまだ。
アーンゲール師が門の前で私に教えたのは、「晴天の空」のシャウトだった。
なんと優雅な名前のシャウトだ。空だけでなく心の霧も晴らしてくれそうだ。
「晴天の空」のシャウトは、「空」「春」「夏」から成る。
そういえば私が初めてこのハイフロスガーを訪れたとき、庭園でのシャウト練習のためにグレイビアードの誰かがこのシャウトを使っていた記憶がある。このシャウト一つで、悪天候が晴天に変わったのだ。
このシャウトが、グレイビアードらが私に教えられる最後のシャウトらしい。
私がシャウトを習得するのを確認すると、師らは庭園から立ち去った。私はハイフロスガーを卒業したのだ。
これまで師から教わった「声の道」の教えをかみしめつつ、自らのシャウトを極めるため、私は世界のノドの山頂目指して一歩を踏み出した。
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1. エリク君…(笑)
途中からトカゲ兄さんが妙に壁際に追いやられてるのは、エリクが腰掛けるタイミングで押し退けられたんだろうなぁ、と…
でも、SPS管理下のフォロワーは話し手とプレイヤーの間に無闇に割り込もうとしないので、長話が退屈でも彼らなりに空気を読む努力はしているように見えますね。
たまに椅子に座ろうとしたフォロワーに押し退けられるのも、近くで話を聞いておこうとした結果なのかもしれません。
Re:エリク君…(笑)
それにしても、自由行動中のフォロワー達は自由すぎますね。椅子の前でプレイヤーとアーンゲール師が重要な話をしてたのに、話の合間、アーンゲール師がちょっと立った隙に二人を押しのけて椅子を横取りしたエリク。「家具のど真ん前に他のNPCがいるときは家具の使用を控える」という高度なAIは、たぶん次回作でも無理かもしれませんね……。
SPSの自由行動AIは多少調整しているものの、バニラのセラーナさんのとほぼ同じなので、NPCと会話中でも目の前を無理やり横切ろうとすることはあります。もしなかったとしたら、そのフォロワーが空気を読める超気の利くNPCだったとしか言えないかも(笑)