天井が高いとはいえ、洞窟の中で寝るのはかなり圧迫感がある。おかげでかなり早く目覚めてしまった。
暗い中出発の準備を整えていると、ようやく朝日が聖堂内に差し込んできた。出かける前に聖堂の庭を少し見学してみた。
かなり荒れ果ててはいるが、苔むしたアカヴィリ様式の東屋がなかなかの趣を添えている。
庭に面した聖堂の正面も見事だ。
壁の研究といいこの建物といい、エズバーンは死ぬまで研究対象に困ることはないだろう。
庭の橋に立って下を見てみると、リーチの街道が丸見えだ。
そういえば、あそこの道を旅していた時に、遠くの岩山の上に奇妙な形の建造物を見た気がする。この聖堂だったのだな。
ノルド様式ならいざ知らず、アカヴィリ様式ならこのスカイリムではだいぶ目立つだろうに。
よく今まで秘密のままでいたものだ。人を寄せ付けない地形のおかげなのだろうか。
余りに景色がいいので、調子に乗って建物の裏手の山のてっぺんに登ってみた。
絶景かな、絶景かな。マルカルスの町まで視界が通る。
さて、無駄に遊んでいるうちに朝もだいぶ遅い時間になってしまった。行くか。
幽体化のシャウトで眼下のカース川にダイブしてもよかったのだが、下手なことをするとまた道に迷う。
おとなしく聖堂から降り、昨日そこそこに暴れたカーススパイヤーの野営地に引き返した。
生き残りのフォースウォーン達を蹴散らして、山越えの道からロリクステッドへ向かうとしよう。
敵の数は多いが、特に全滅させる必要もない。私をおとなしく通らせた方が身のためだ。
もっとも、話が通じる相手でもないので、結局一人だけさっさと始末して通らせていただいた。一度怒らせると手の付けられない連中ではあるが、山賊ほど好戦的ではない。
野営地を通り過ぎて少し山を登ると、民家らしきものが見えてきた。
大きな溶鉱炉が見えるので、鉱山村かなにかだろう。人やリーチ衛兵の姿も見えるので、山賊の住処ではないようだ。
近づくと、村というよりはるかに小規模な集落だ。わずかな労働者の姿しか見えない。しかも暇そうにしている。休憩中なのだろうか。
通り過ぎようとする私を、労働者の一人が呼び止めた。
どうやら坑道を掘っている時に、ノルド遺跡を掘り当ててしまったようだ。
まだ掘りはじめの鉱山だったらしい。少数の労働者しかいないのはそのためか。
スカイリムは歴史が古すぎる。掘ればドラウグル一杯の遺跡にぶち当たるのも珍しいことではないだろう。
彼は親切にも鉱山の危険な状態を伝えてくれた。
私もあんな所に行く気はないので、お互い気持ちよく別れられそうだ。
気の毒な労働者達を後に、散歩がてらに山を越えてホワイトラン領へ入る。
しかしノルド遺跡か。探索すれば言葉の壁が見つかるかもしれないのだが、一人ではさすがに不安だ。一緒に行きたいというもの好きでも見つけたら、戻って探索してみるのもいいかもしれない。
さて、たどり着いたロリクステッドでは、エリクが客引きをしていた。
相変わらず不安しか誘わない売り文句だ。実際彼を雇ってくれるのは、顔見知りの村人くらいらしい。
ああは言っても、彼の実力はそこらの山賊を蹴散らせるくらいのものだ。遠出する商人達の護衛には頼りないかもしれないが、村近くを出歩く村人の護衛程度では腕を持て余す。
彼にはハイフロスガーまで、私の護衛をしてもらおう。ちょうどいい腕試しになるはずだ。
それから荷物持ちも頼んだ。連日のドラゴン退治で、かなりの骨が集まっている。一人では重くて持ちきれなかったのだ。
そういえば、エリクはまだドラゴン退治はしたことがなかったか。私についてくれば、そのチャンスに恵まれるかもしれない。
彼は、すでにスカイリムのあちこちを旅してきた私を羨ましがっていた。
エリク自身冒険者を夢見てまずは傭兵になることに成功したのだが、遠出する金が集まらず、結局故郷の村から動けずじまいだという。
それではさぞかし退屈だったろうから、今夜にでも私の日記を見せてあげよう。これまでにスカリムで見てきたことを全て記してある。いち冒険者の記録に過ぎないが、誰かの冒険心を刺激できるのであれば幸いだ。
ホワイトランまでの道中は、平和である。
巨人ですら、呑気に街道を堂々と歩いていた。とはいえ不用意に近づくと、攻撃されそうだが。
それにしても二人連れの巨人はめったに見ない気がする。兄弟だろうか。それとも夫婦だったりするのだろうか。人型をしているとはいえ、他種族の雄雌を見分けるのは難しいこともある。例えば、私の限られた経験でも、ファルメルの雌雄は非常に分かり辛い。
夕方五時前。西の監視塔が見えてきた。
こちら方面からやってくる旅人達は、あの塔を見るとこの日の旅路が終わりに近いことを知るのだろう。
そして多くの旅人達が、バナードメアで喉を潤し足を休める。
雑然とした酒場のあちこちから漏れ聞こえる冒険者達の雑談に、こっそりと耳を傾けてみるのもなかなか楽しい。
さて、ハチミツ酒で腹を温めたことだし、家に帰ろう。
素晴らしいことだ。ホワイトランに家を買ってつくづくよかった。宿無し冒険者もいいが、家持ち冒険者の方がなにかと心に安定を感じる。
家では留守番のリディアと居候のイリアが私を出迎えてくれた。何もない空っぽの家で。
床だけは広いから、エリクには寝袋を出してその辺で適当に休んでもらうか。
「家の中でずっと、野宿するように暮らしております。従士様」
耳が痛い。台所だけは何とかしつらえたのだが、まともな寝具などはまだだ。
家だけ持っていても、やはりだめか。家を持てば、その中に置く家具も自動的に必要になるのだ。ついでに、家族とやらも必要になるのだろうか。家持ち冒険者になるのも、たいへんだ。
前へ |
次へ
1. 無題
しかし、手厳しいながらも忠義を越えた思いやりを感じるのは私だけでしょうか?
リディアさんはきっと良いお嫁さんになれそうな気がします。
そして私もエリク君をアシスタントと称してあちこち連れ歩いておりますが、小さい頃から早寝早起きして畑仕事に精を出してきただけあって、驚くべきタフネスの持ち主だと思います。
歩くマジカの塊みたいな体質と引き換えに、ダンジョンのトラップがかすっただけで埃まみれの地面に這いつくばる羽目になる私とは正反対ですね。笑
経験不足と謙遜する割に意外と動きにキレがあるのは、一時期ロリクステッドに逗留していたアリクル戦士達から暇つぶしに剣の手ほどきを受けたからかもしれません。
Re:無題
エリクは「経験はないが」と自称してますけど、どの敵相手でも一切ひかないので普通に強いですよね。本当に戦闘経験値ゼロの農民だったのかと。ハンマーフェルに行って稼ぎたいとも言っていた気がするので、アリクルの人達と仲良くなって、剣の使い方やあちらの国のことを色々教えてもらっていたとしても不思議ではないかもしれません。アリクルの戦士達がリバーウッドではなくロリクステッドに滞在するのも、実はそういうところを意識してセリフが組まれていたりして。
クエストなどで語られることのない、ちょっとした関係がちりばめられているゲームなので、こうした些細な関連性に気づく(あるいは深読みする)のも楽しいですよね。