昨日は長い一日だった。
あれから宿のベッドでゆっくり休むつもりでいたが、荷物の整理をしているうちに時間がたち、結局夜明けの数時間をうたたねする程度になってしまった。二日続けて竜退治をしたので、骨や鱗がかなりの重量になっていた。これは宿で預かってもらうことにした。持ち歩くには重すぎる。
今日はデルフィン達と約束した場所へ合流するつもりだ。カーススパイヤーとかいう場所だったはずだ。
昨晩の殺戮の苦い後味は意外と残っていない。少なくとも公平な狩りができたせいなのか、ファルクリース従士として罪人を始末した達成感のせいなのかは知らないが。
さて、考え事をしながらしばらく歩いているのだが、道はこちらでよかっただろうか。
目的地はリーチ地方なので、ロリクステッドの西側の山を越えるのが近道のはずだが。
とりあえず向こうにリーチとハイロックを分かつ大山脈が見えるので、方向はこれでいいだろう。ドルアダッチ山脈だったか。
ヘルゲンで記憶をどこかに失くしてしまったが、こういう一般的な知識は頭に残っているのだな。
さらに進むと道が途切れた。どうやら迷ったな。ドルアダッチ山脈は依然として前方にあるから、方角はいいはずだと自分に必死に言い聞かせる。
どこかに降りられそうな斜面がないかと見まわしていると、荒野の向こうにサーベルキャットの姿が見えた。
獣の王の罪なき命を手にかけた今の私は、カイネの恩恵を失っている。サーベルキャットに見つかれば、追いかけられて引き裂かれ、一巻の終わりだ。幽体化を使ってでも早々にこの山から下りた方がよさそうだ。
もっとも崖下を見て回っているうち、幸にして幽体化で飛び降りずとも下れそうな斜面を見つけた。具合のいいことに、下の方には街道も見える。迷子は回避されたようだ。
途中狼どもに出くわした。獣は食うのでない限りは一切手をかけたくない。しかしここはやむを得ないようだ。はやくデルフィンと合流してやることを済ませ、ハイフロスガーを詣でてカイネに許しを請い、竜の骨を奉納したい。
無事に街道へ降り立つ。
この景色は見覚えがある。たしか先へ進めばオールドフロルダンがあったはずだ。
オールドフロルダン宿では、あのしっかり者のスクリが相変わらず客達を仕切っていた。
例の幽霊も、いつのまにか宿に馴染んでいるようである。話しかけると相変わらず私をタロスと誤解し、約束の剣を要求してくるので閉口したが。
スクリの話によると、カーススパイヤーはカース川沿いを下っていけばいいとのこと。
今度はちゃんと道沿いに進もう。
川向こうのあの山辺りがカーススパイヤーか。
目的地が見えてきたのはいいが、なにかここ二日間見慣れたものが山の間を飛んでいるぞ。
これは三日連続のドラゴン戦になりそうだ。
このドラゴンはもしかして、カーススパイヤーで私を待ち伏せしていたのかもしれない。
いち早くこちらを見つけ、氷の息を吐いてきた。
他の旅人が通る街道で戦闘を始めるわけにもいかない。
私は橋を渡り、その先にあるというカーススパイヤーへ急いだ。
私を迎えたのは他でもない。デルフィンとエズバーンだ。
待合わせに遅れた上、ドラゴンまで連れてきてしまって申し訳なく思う。話はあとにして、まずはあのドラゴンを倒すところから始めよう。
デルフィンの矢、エズバーンの魔法の加勢を得て、戦いはずいぶん楽に進む。
かつてのブレイズもこれくらい鮮やかにドラゴン退治をしていたのだろうか。
エズバーンは張り切りすぎて、自分が前に出る始末だ。
あっけないものだ。それほど上位のドラゴンではなかったのかもしれない。
エズバーン曰く、このドラゴンはアルドゥインの偵察だった可能性があるとのこと。奴も人間達の動きが気になるようだ。
さて、カーススパイヤーについたのはいいが、現地はフォースウォーンの野営地になっているらしい。そういえばここにブレイズの館を立てた時、ブレイズ達は現地住民とうまい具合に共存していた記述があった気がする。現地の人間とはリーチメン達のことだろう。もっとも今のフォースウォーン達がそれを覚えている保証は全くなさそうだが。
私達の出した答えは単純明快だ。話が通じればよし、通じなければ強行突破するのみ。
果たしてこいつらと話の通じたことが、一度でもあっただろうか。
邪魔をするフォースウォーン達を片付け、崖に空いた怪しげな洞窟の前に立つ。
ここを抜けた先に、ブレイズの隠れ家に通じる道があるらしい。
さあ、この家の真の持ち主達がお帰りだ。今すぐ立ち退いてもらうぞ。
洞窟の中はフォースウォーン達の住処になっていた。ここも数百年前はブレイズ達の居住区だったかもしれないな。
洞窟を抜けると、エズバーンが感嘆の声をあげた。
ごく狭い岩山の間に、見慣れない建造物がある。どう見ても、古代ノルド様式ではない。
エズバーンによると、これがアカヴィリ建築なのだそうだ。
岩壁に彫り込まれたようにある建造物だが、そこまで登っていく道が見つからない。
見つけたのは三本の意味ありげな柱。
こういう三本の柱で絵合わせをするパズルは、ノルド遺跡でよく見るタイプだ。
これなら得意だ。私に任せて欲しい。
柱の絵を合わせると、脇から橋がおりてきた。ブレイズ達は入り口を隠すのに様々な仕掛けを作っていたようだ。
エズバーンが真っ先に橋を渡っていった。これまでの研究の成果を目の当たりにしているのだから、無理もない。学者冥利に尽きる瞬間と言っていいだろう。
さらに進むと今度は圧力板だらけの小部屋。あからさまな罠にエズバーンも足を止める。
デルフィンも同じく足を止めた。
二人はどうやら私にどうにかして欲しいと思っているようなのだが。
期待された私は緊張で、突発的に揺るぎなき力を放ってしまう。
シャウトを勉強しすぎたせいか、最近くしゃみのかわりにこれが出るようになってしまって。すまないすまない。
やはり罠があったな。吹き飛んだデルフィンとエズバーンが圧力板の上に倒れるなり、中央の柱から火炎球が発射された。
そのすさまじさたるや、ノルド遺跡の棘付き扉など子供じみた悪戯に思えるほどだ。侵入者を殺すどころか、痕跡すら残さず葬るつもりらしい。
私は落ち着き払い、火炎球の罠が落ち着いたところで幽体化のシャウトを使って、安全に罠を解除した。
それにしても、こんな情け容赦ない罠を作った連中も、火炎球乱射を耐え抜いた二人も、大したものだ。これがブレイズか。
小部屋を抜けるとついに広場へと出た。向こうに見えるのは建物の壁のようだが、扉が見えない。
あるのは巨大な顔だけだ。
顔の前には祭壇らしき円形の足場。
エズバーンの研究だと、血の儀式を行う場所らしい。
しかもその儀式にはドラゴンボーンの血を使うと。
身構えた私に、エズバーンは少量の血で構わないはずだとなだめた。
さらにデルフィンが背後からこんなことを言う。
いや、さっきの悪ふざけは悪かったと思っている。本当だ。
デルフィンが「助け」を出す前に、私は速やかに台座に乗り、ナイフで手の先を少し傷つけた。
この程度の血で大丈夫なのか。
台座が私の血を受けると、巨大な顔が揺るぎだす。そして奥へとゆっくり引き込まれ、通り道が姿を現した。
エズバーンもデルフィンも、これまでのように我先にと先へは進まない。歴史的にも貴重な場所に、最初に足を踏み入れる栄誉を私に譲ってくれるという。
……ああ、二人とも怖いのか。さすがに先達者の残した罠には懲りたようだ。
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1. 無題
絶対わざとだコレ!!
Re:無題