この日は朝から雨だった。雨が鱗を濡らすのは心地いいが、スカイリムの冬の雨は少々冷たすぎるのが難だ。
ファルクリースへ戻って山賊退治の報告をし、他の仕事を見つけてあともう少し路銀を稼ぐつもりだ。
昨日来た道をそのまま逆にたどればいいのだが、それはそれでつまらない。
途中、積み石塚で目印のついたわき道を見つけたのでそちらへ行ってみる。方角的にはこちらの道もファルクリース方面へ伸びているから、大丈夫だろう。
峠を登りきる頃、空が晴れてきた。わき道も無事にファルクリースへの街道へ行き当たる。
ちょっとした寄り道だったが、道中トロールに出くわすこともなく、なかなか楽しかった。今度もここを通っていけば、山賊だらけのヘルゲンを横切らなくて済みそうだ。
旅路は上々。昨日のうちに邪魔な待ち伏せ山賊達も片づけてしまったので、この上もなく安全だった。
午前中のうちにファルクリースへ到着する。まずは首長に報告だ。
山賊を始末したことを伝えると、首長は報酬をすぐに手渡した。
金を出せば誰かが自分のかわりに手を汚してくれると、よく分かっている。こういった手合いとは、面倒事を持ちたくないものだな。私の存在を厄介だと感じるようになれば、別の傭兵を雇って始末してくるのも厭わない人間だろう。
ひとまずは、私が役に立つアルゴニアンだということが、彼にも分かったようだ。
しかし土地を購入する許可をくれたということは、かなり気に入られたのだろうか。一介の旅人には望むべくもない代物だ。金の報酬よりいいものかもしれない。
これで土地の購入代金がソリチュードに豪邸一軒を持てる額なら、金持ち連中が貧乏人をぬか喜びさせるタチの悪い冗談だったのかもしれない。
しかし執政が提示した金額は、破格の安さだ。むろん貧乏人にはそう簡単に手の出せる額ではないが、死ぬほど頑張って薪割りをすればすぐに稼げる値段でもある。
どうやらファルクリースの首長は、本当に私を認めてくれたようだ。さらに町に貢献すれば、従士の枠に空きがあるとまで言ってくれた。
ヘルゲンで記憶を失って以来天涯孤独に旅する身となってしまったが、ホワイトランに家を持ち、ファルクリースに土地を持てるとなれば、いつかこのスカイリムで立地出世も狙えるのではないだろうか。
けっしてそのような夢物語を描いているわけではないが、仕事を探す前に、ファルクリースで困った人を助けてみるか。
ちょうど目の前で薪割りをしていたこのご老体は、友人の遺灰をアーケイ司祭に届けて欲しいとのたまっている。いいだろう。私は困っている人を見ると放っておけないのだ。
巨大な墓地へ遺灰を届けに行った戻り、墓地近くの農園にいつぞやの夫婦の姿を見つけた。
当然だが昨日の葬儀の後だから、二人とも表情は暗い。しかし暗いだけでなくとても辛そうだ。
思い切って夫の方へ声をかけてみた。
葬儀について尋ねると、彼は娘が亡くなったと打ち明ける。
しかも病気で亡くなったのではなく、惨殺されたという。まるで狼に引き裂かれた小鹿だったそうだ。
彼は怒りに打ち震えながら、犯人の名を告げた。そいつは今、ファルクリースの牢屋に入って処刑の日を待っているらしい。
牢屋は衛兵の詰め所地下にあるそうなので、見に行った。もしかしたら傭兵仕事のネタにならないかという大いなる期待と、単なる好奇心を持って。
くだんの労働者は、水の溜まった牢にいた。天井から外の明かりが漏れているのを見ると、ここは井戸の底なのか。こんなところに囚人を閉じ込めていいのかという疑問もわく。
私の姿を認めた囚人は、牢越しへと歩み寄ってきた。見物人には飽き飽きしているようである。
マシエスが話していた通り、囚人はごく普通のノルドに見えた。とてもあれほどの醜悪な事件を引き起こした張本人には見えない。しかし変わっていたのは彼の姿ではなかった。
少女を襲ったのかというこちらの問いかけに対し、彼は指輪のせいだと答えるのである。
彼の見せた指輪は、狼らしき動物の頭部をあしらった銀の指輪だった。その指輪はハーシーンのものだという。デイドラの名が彼の口から出た時、これは傭兵の金稼ぎを超えた案件だと知った。
彼は自分がウェアウルフだと打ち明けた。しかも変身が自分で制御できないらしいのだ。ハーシーンの指輪は変身を制御できる力を持ち、彼は何らかの方法でそれを手に入れたそうだ。しかしハーシーンは、指輪の持ち主が好きな時に変身して狩りが行えるよう、その指輪を作ったと思われる。
平穏に暮らしたかった彼は、指輪の力を逆手にとって変身を抑えていた。それがハーシーンの気に障ったらしい。ハーシーンは指輪の力を、獣性を暴走させるものに変えた。しかもシンディングがマシエスの娘と一緒にいるときに。
普通の人間がデイドラの力に逆らえるはずもない。私はシンディングに同情した。殺された娘はむしろ、ハーシーンに殺されたようなものかもしれないのだ。
ところが当時の様子をシンディングに尋ねると、その話の内容はかなり生々しいものだった。
こいつはこのまま、断頭台の露と消えて構わないのではないかな。本人もそう言っているし。
私は彼との会話を打ち切って、牢を後にした。なんとも後味の悪い訪問だった。
傭兵の仕事は、宿で探すのが一番いいように思う。人助けにも金にならないような、それどころかデイドラに目をつけられそうな話はいっさいお断りだ。
単純な賞金首の依頼。これこそ傭兵仕事の王道だ。
最初から素直にこちらを選んでおけばよかった。
前へ |
次へ