イヴァルステッドを南に発って、街道沿いに西へ進む。
ヘルゲンへと続く道は、雪山の向こうへと消えていた。今でこそ人通りの限られるさびれた道ではあるが、古代は交通の要所であったのかもしれない。山道の入り口に、古代ノルド遺跡でよくみられる鳥頭の石柱が建っていた。
ずいぶんと立派なものだ。あるいはこの山のどこかに、大きなノルド遺跡が眠っているのかもしれない。そこに言葉の壁があるのなら、いつかは探しに行かねばならないだろう。今はその時ではないが。
さすがにこの狭い山道では、街道を外して進むことはできない。
しかし心配していたサルモールの通行はなかった。馬に乗った狩人が一人、獲物を探してうろついていただけだ。兵士たちがここを通ることはあるのか尋ねると、狩人は首を振った。この山は帝国の力が強いファルクリース領とストームクローク寄りのリフト領の境にあり、兵士たちは戦闘目的でもなければ山に入るのを避けているらしい。
となると当然サルモールも行き来しにくいか。
山を抜けてファルクリース地方に入る。
久しぶりのヘルゲンが見えてきた。しかし、村はすでに山賊達がはびこり始めたようだ。
ここの首長はヘルゲンを再建する意思はないのだろうか。彼から頼みごとがあるという手紙を受け取っているから、そのうち訪ねてみるか。
ヘルゲンを抜け、そこからは東の山を抜ける道を選んだ。主街道ではないので、人に会う心配がまずない。
ここまで来てサルモールに出会い、エズバーンに何かあったようではデルフィンに殺されてしまうだろう。旅の終点が近いだけに、用心するに越したことはない。
夜遅く、ようやくリバーウッドにたどり着いた。
人々は夕食か宿で酒を飲むかの時間なので、村の道にも衛兵以外の姿はない。
エズバーンを連れて、スリーピング・ジャイアントの前に立った。彼は仲間の隠れ家、正確には一切隠れもせず女主人までして生活していたことを知り、その大胆さが信じられないといった様子だ。なにしろ自分の方は逃亡者の見本よろしく、誰の目にもつかないよう下水道の奥底にずっと隠れていたのだから。
二人は互いの顔を知っていたようだ。
宿に入ってすぐ、エズバーンは他の客たちの間にいるデルフィンを見つけ出した。
では積もる話は二人でゆっくりと……、と行きたいところなのだが。
デルフィンは話せる場所に私もしっかり誘った。一体いつの間に、私もこの問題に深くかかわるようになってしまったのか。
例の隠れ家に降りると、エズバーンは自分もドラゴンボーンの魂の吸収を見たとデルフィンに話した。
彼が私をドラゴンボーンだと確信してくれたおかげで、話はいくらか早く進む。
エズバーンは隠れ家から持参してきた書物をどさっと部屋におろし、いそいそと説明を始めた。
突然始まるブレイズの歴史話に、私だけでなくデルフィンも面食らったようだ。
だかエズバーンという人物は、昔からこうだったのだろう。自分の研究の話となると、立て板に水のごとく話題が尽きないようだ。
ドラゴン退治に命を懸けていたブレイズ達。その彼らが、ドラゴンの親玉たるアルドゥインの存在を許すはずがない。
彼らはアルドゥインとドラゴン達に関する伝説を集めていたそうだ。その集大成が、一枚の壁、アルドゥインの壁だという。
伝説には未来も含まれていた。つまり壁に描かれた絵巻物の後半は、未来、すなわち予言に相当するという。
エズバーンの推測によると、その壁にアルドゥインの倒し方が記されているかもしれないということだ。なぜなら過去アルドゥインは、竜戦争の際一度人間に敗れている。絵巻物の伝説の部分を読み解けば、なにか分かるはずだというのだ。
どうも楽観すぎる気がする。壁があるかないかも確信がない上に、たとえ見つけたとしても壁の端っこ、予言に相当する部分に、人類の滅亡が描かれていたらどうしたらいいのだ。
実際的なデルフィンは、エズバーンのいう隠れ家の存在については納得したものの、壁の存在や壁に描かれている事柄の真実性は半信半疑らしい。
ともかくもそこに行けばサルモールの心配がなく過ごせそうだということで、すぐさま最後の旅路への用意を整え始めた。
……私は用事があるから、後で合流させてもらうとしよう。
相変わらずデルフィンの行動は電光石火だ。この決断力と行動力こそが、今日まで彼女を生き永らえさせていたものだろう。他者が意見を挟む隙も無い。
これはオーグナーですら例外ではなかった。いや、あの無口な男こそだからか。
デルフィンの「宿はあなたにあげる」という一方的な別れの言葉を、オーグナーは口ごもりながらも結局受け入れるしかなかった。デルフィンはエズバーンを連れて、わずかな未練を見せることなく宿を後にする。
あっけない別れだ。
台風のような女主人が去ったスリーピング・ジャイアントは、いつもよりゆっくりとした時間が流れはじめていた。
さて、デルフィンと合流する前に、私もいくつか用事を片付けるとしよう。まずはイリアの身元をどうするかだ。邪悪な魔女集団の一人だったとはいえ、彼女はインペリアルのうら若き娘だ。このまま流れ者の冒険者としてひとり世に放つには、彼女はあまりに世間知らずすぎる。今の私にできることと言えば、ホワイトラン従士の地位を利用して彼女に住所を与えることだろう。私自身、記憶を失ったままこのスカイリムに放り出されてそれなりに苦労した。似たような境遇の者を助けるのは、ある意味義務だ。
住所を得るには家がいる。そして懐には、いまだ千ゴールドとちょっとしかない。私の明日のスケジュールは決まったも同然だった。
前へ |
次へ