ヴァルトヘイムタワーで一晩を過ごし、我々は夜明けとともにホワイトランとイーストマーチの境界を越えた。
道のりはいたって平和だ。針葉樹の並ぶ林の中を、舗装された街道を進むのみ。
だが今日は、いくつか傭兵らしい仕事が待っている。
道をそれて山手の道へ入ると、そこには血まみれの人骨を飾った道しるべがある。これだ。これからこの恐ろしい印を飾った連中を、退治しに行くのだ。受けた依頼は、ダークウォーター・クロッシングの元冒険者、アネック夫人だ。村近くに出没する山賊の元を断ちたかったのと、退治の顛末を冒険物語として聞きたいとのことだ。
話のタネになるほど面白い連中だといいが。
道を下った先の小さな池近くの洞窟が住処らしい。元冒険者から受けた風変わりな山賊退治の始まりだ。
洞窟へ入ってすぐ、見張りの詰め所らしき場所が見える。見張りは二人。
ボスの悪口で盛り上がっているらしい。洞窟内は音が良く響く。連中の悪口は侵入者に筒抜けだ。
さて、盛り上がっているところを悪いが、そろそろ口を閉じる頃合いだ。私がこぶしを握って飛び出すと、見張り達はこちらの姿にすっかり気を取られてしまう。私に向かってくる山賊のすぐ背後で、ジェナッサが弓を引き絞り、リディアが両手斧を大きく振りかぶった。
この山賊の末路は、詳しく語る必要はないだろう。
この山賊のアジトは、進むたびにボスの悪口がいたるところで漏れ聞こえてくる。彼らの話をまとめると、ボスはよほど自分の強さに自信があるらしく、手下どもの前で熊などの猛獣と一騎打ちをするのを好むらしい。それだけならまだいいのだが、気にくわない手下達をバトルロイヤルでまとめて葬り去るのも好きなようだ。
ボスの悪口は全て聞かせてもらったぞ。私が叫んで連中の前へ飛び出すと、山賊どもは慌てふためいた。
少なくともボスからのお仕置きはないから、安心するといい。いずれにせよ、リディアの振り回す両手斧を見た山賊達にはなんの慰めにもならなかったかもしれないが。
手下どもは、この間捕まえた「猫」なら、あのボスも敵うまいと話していた。
洞窟の先には大量の檻を置いた広い空間が広がっていたのだが、檻の一つにサーベルキャットの姿がある。「猫」とはこのことか。
私は檻の屋根にこっそりと飛び移り、手下から巻き上げていた檻の鍵で扉を開いた。
サーベルキャットは喜び勇んで外へ飛び出し、世話係の山賊達に襲い掛かる。
ボスが恐れるだろうと言われていただけあって、サーベルキャットの強さはかなりのものだ。人間など猫パンチひとつで洞窟の端から端まで吹っ飛ばされてしまう。これなら私は戦いが終わるまで、見ているだけですみそうだ。
檻の上で優雅に見物を決め込んでいた私は、サーベルキャットのコロシアムに飛び込んだ新しい挑戦者にがっくり来てしまった。リディアだ。サーベルキャット一匹だけでは、大勢の山賊相手に続かないとでも思ったのか。
一方サーベルキャットは、自分の助っ人など認識するはずもない。山賊と戦うリディアの背中に情け容赦なくじゃれつき始めてしまった。
巨大な猫にじゃれかかられ、さすがのリディアも膝をつく。
そこへさらに新たな挑戦者が現れた。賭けなら本命が来たというところか。くだんのボスである。騒ぎを聞いて、奥から駆けつけてきたらしい。
いくら猛獣より強いボスでも、サーベルキャットとの戦いで消耗したところをつけば、楽に倒せるだろう。
私のそんな甘い予想は数秒で打ち砕かれた。むしろ消耗していたのはサーベルキャットだったのだ。ボスは自分のアジトを無茶苦茶に荒らされて、相当お怒りのようだ。彼は檻の上に立つ私を、キッと睨みつけた。
なんてことだ。サーベルキャットを一撃で葬り去った男に、立ち向かわなくてはならないのか。
私は拳を固め、檻の上から飛び降りた。
山賊の射手も一人生き残っていて、分が悪い。が、これでも一応、膝をついたままのリディアを守らねばならないのだ。負けるわけにはいかない。
シャウトでボスをよろめかせながら戦っていたところへ、ジェナッサが弓を持って追いついてきた。助かった。さすがは傭兵。的確な狙い撃ちでボスを足止めし、私はようやく勝つことができた。
ジェナッサの勢いはこれだけでは止まらない。弓を収め剣を抜いたかと思えば、生き残りの射手に二刀流のとどめを炸裂させる。
ジェナッサ曰く、リディアは考えなしの猪突猛進を反省すべきだし、私も無策だったうえに助けに入るのが遅すぎたそうだ。
しまらない山賊退治だったが、熟練の傭兵が一緒にいてくれて助かった。
私も一人前の傭兵を目指すなら、あれくらい頼もしい存在になりたいものだ。
これを土産話に、ダークウォーター・クロッシングへ向かおう。
時刻は昼過ぎ。この調子なら、比較的早く目的地に着けそうだ。
アモル砦を過ぎたあたりで、突然大きな影が街道をすっと過ぎ去った。
空を見上げると、ドラゴンだ。
私達はそれぞれ武器を構えた。しかしドラゴンはそのまま過ぎ去っていく。
私達の姿が見えなかったのか、あるいはただ様子を見に来ただけなのか。ドラゴンは火山地帯の方へと飛び去ってしまった。あの姿は、アルドゥインではないな。いったいどういうつもりだったのだろうか。
相手は空を飛ぶから、追いかけて行って聞き出すわけにもいかない。
ダークウォーター・クロッシングに到着し、アネックに山賊退治の件を報告する。
サーベルキャットの大暴れとリディアが膝をついた顛末は、それなりにうけた。
新鮮な冒険話を聞いて、アネックの冒険者の血が再び騒ぎ出したようだ。
町を出ていくなら途中まで送るとまで言ってくれた。そこで私はふと、若いアルゴニアンのことを思い出した。行方不明になった鉱夫だ。
私が以前川の近くで怪しげな洞窟を見つけた旨を伝えると、アネックは探しにいこうと意気込む。口うるさい夫も、仕事仲間を探しに行くのであれば文句は言うまいと。
私もあの洞窟から逃げ帰って以来、ずっと気になっていた。
アネック、ジェナッサ、リディア。これだけ仲間がいれば、あの奇妙な生物にも太刀打ちできそうだ。
それにしても屈強な女性ばかりである。そしてこれから助けに行くのはトカゲ男である。これほど絵にならない救出劇も珍しいのではないか。囚われの姫を勇敢な騎士が助けに行く物語は、このスカイリムでは成り立たないのかもしれない。
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