翌日、ソリチュードへの道のりで朝一番の追剝ぎに会う。
今のところ懐には100ゴールド以上あるのだが、渡してしまったら今度は私が追剥ぎから追剝ぎをやらなくてはいけなくなる経済状態だ。
お互い無用な争いは避けたいものだな。
何人もの山賊を殴り倒してきた盾と籠手をこれ見よがしにチラつかせると、追剥ぎはいきり立っでダガーを抜いた。しかし私はその鼻先で腕を下ろしてみせる。
こちらの余裕しゃくしゃくの態度に気勢をそがれたのだろう。追剥ぎは「今回は許してやる」と強がりを言いながら、渋々ダガーをおさめた。
ハイヤルマーチとハーフィンガルの境界近くまで、ぽつぽつとスカイリムの不景気さを互いに愚痴りながら旅ができたのは、面白い経験だった。仲良くはなれなかったが。
追剥ぎと道を分かれて以降は、これといった危険のない旅が続く。少々天気が崩れてきたのを心配するくらいだ。
その天気すらも、ドラゴン・ブリッジ近くへ来ると気持ちのいい快晴に変わった。
霧が晴れて視界がよくなったのはいいものの、見る必要がないものまで見えてしまう。
これはいったい何の儀式だろうか。町の近くで物騒なことだ。
ドラゴン・ブリッジの橋は相変わらず見事だ。竜の背骨にも例えられることもあるようだが、この大きさの背骨を持つ竜が実在したら、アルドゥインより始末が悪そうだ。
前回は通りすぎただけの町だが、今回はゆっくりしていくつもりだ。大使館でのパーティーにはまだ二日もある。
橋のたもとにある製材所の労働者が、簡単な観光案内をしてくれた。町の目玉といえば橋くらいしかないが、そこから見下ろすカース川の眺めはよく、宿の酒もお勧めだそうだ。
彼自身もこの気持ちの良い場所で一日汗をかき、仕事を終えて酒場で飲むひとときを何より楽しみにしていたらしい。
「楽しみにしていた」と過去形なのは、ここ最近、彼の奥方が彼に酒を禁じたためだ。彼に代わって口をきいてくれれば、御の字だという。時間はあるから手助けしてみよう。たまにはこういった喧嘩の仲裁もいいものだ。なにより血を見なくていい。
心臓に氷の塊が入っていると評されていた奥方だが……。
彼女の話を聞くと、夫に酒を禁じたのには立派な理由があった。借金があるのに、あの夫は稼いだ金を全部飲み代につぎ込んでしまうというのだ。しかも妻には「もう飲まない」と約束しておきながら、近くの洞窟にこっそり酒を貯め込んでいるというのだから、弁護のしようがない。
本当に困った夫だ。狼が番をしているらしいが、キナレスの加護を受けている今の私であれば襲われることはないだろう。
結局私は冷徹な奥方の言い分に深く納得し、夫を改心させるべく隠した酒を処分しに行くことにした。
むろん酒は私の腹の中に処分する。奥方には了承済みだ。ドラゴンブレスというハチミツ酒だけは、人質として彼女に届けなければならないが。夫の大好物の酒らしい。
夫が隠した酒を詰め込めるだけ荷袋に詰め込み、ドラゴン・ブリッジへと引き返す。なんとも楽な仕事だ。
しかしあの夫も酒さえ飲まなければ、働き者で人懐っこいいい男だ。楽しみがあるからこそ、仕事もやりがいが出るものだ。
帰り道、日が暮れて暗くなった製材所でまだ働く夫の姿を見つけた。
気がつけば自然と彼の方へ足が向き、私は回収したばかりのドラゴンブレス酒を彼に差し出していた。
冷酷な妻に味方した私に怒り出すかと思えば、彼は秘蔵の酒が戻ってきたことを喜んだ。イスミールの髭にかけて、彼は結局のところ奥方にぞっこんらしい。
今回の手助けでは血を見ないと思っていたが、結局誰かは血を見ることになりそうだ。私の方は奥方と顔を合わせる前に、さっさと宿へ引っ込もう。
ちなみに彼の講義は非常に為になった。
スカイリムに迷い込んで以来、最高に平和な一日を過ごした気分だ。しかし二日後にはサルモール大使館への侵入が控えている。気を緩めることなく、体調を万全に整えておかねばならない。
夕食にはホルジェール秘蔵のハチミツ酒、牛のステーキ、青いリンゴ、パンをとった。充実した献立だ。少なくなっていた体重も戻ってきている気がする。
それにしても腹一杯になってベッドに倒れ込む瞬間は、まったくもって幸せに尽きる。
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