フロストミヤ墓地は案の定、ノルド遺跡だった。
遺跡の扉をくぐったすぐ先で、見張り役らしい山賊達が雑談をしている。話題はやはりラジールと、彼が盗んだボスの剣のことだ。山賊達にとって首領のご機嫌が悪いことほど嫌なことはないだろう。
物陰から盗み聞きしたうえに先制攻撃を仕掛けるのは少々礼儀にかけるが、仕方ない。
今夜の宿を得るため、お前達の問題とお前達自身のことを解決させてもらおう。
シルバードリフトの隠れ家同様、山賊達は古代ノルド遺跡をアジトに作り変えて暮らしているようだ。かがり火が焚かれているために内部もあたたかく、意外と居心地がいい。
山賊達の話を盗み聞くと、カイルはボスではないのだろうか。いずれにしても、ラジールというチンピラ山賊がピンチである状況には変わりがない。
山賊達はラジールの盗んだボスの剣だけでなく、アジトの様子にも違和感を覚えていた。
特に遺跡の奥で過ごす山賊が強く感じているらしい。
山賊達を片づけながら内部を捜索していると、ラジールの書置きを見つけた。
蒼白の淑女。そういえばこの幽霊について書いた本があった気がする。娘を失った母親の亡霊で、モーサルの沼地に出没し子どもをさらうとかいうあれだ。
親が言うことを聞かない子どもに「蒼白の淑女がさらいに来るぞ」と脅す程度の、よくある怪談話かと思っていたが。どうやらこれは本物だな。
遺跡の最深部はまだ土砂に埋もれており、山賊達が発掘の真っ最中だった。
発掘が進んだ最近になって、遺跡に立ちこめる不気味な気配が強くなったと見える。それはつまり、イスグラモルの部下が封印したという淑女が最深部にいるということだ。
奥には天井の落ちた深い竪穴洞窟が広がっていた。厚い岩盤の下の埃まみれの遺跡から解放され、湿り気を帯びた夜気が非常に心地いい。
近くの暗がりに、例のカイルが瀕死の重傷を負って座り込んでいた。私が誰かなど、構ってもいられない様子だ。彼はラジールを止めるよう、苦しい息の下で私に頼んだ。剣を取らせてはならないというのだ。
カイルが事切れると同時に、彼のそばに小さな光の球が浮かんだ。彼の魂だろうか。
光は木々の向こうを抜けて飛んでいく。
後をついて行くと、その先には古い石柱と祭壇。そして今まさに、祭壇の剣を手に取ろうとするカジートの後ろ姿がある。
ラジールが祭壇の剣を取ると同時に、青白い女の影が現れた。彼女はカイルの魂と他の犠牲者達の魂をまとい、ラジールに一撃を加える。
一歩間に合わず、ラジールはその場に崩れ落ちた。
蒼白の淑女の視線が私に向かい、からげるように光る魂達が襲いかかる。血を凍らせ骨を焼くようなすさまじい冷気だ。
まとわりつく魂を盾で振り払いながら、私はラジールの遺体へ駆け寄った。
その手から、古いノルドの剣をむしり取る。恐らくこれが、彼女を封印していたものだ。
冷気に鱗を焼かれながら、私は死に物狂いで手にした剣を祭壇へと戻した。
蒼白の淑女の姿が消え、凍りついた夜気の塊が四散する。
ダイヤモンドダストが晴れると、辺りに静寂が訪れた。
竪穴に流れ込む小さな滝が風の音と一緒に鳴っているのみである。
しばらく耳を澄ませていると、古代ノルド達の歌声が私を読んでいるのに気が付いた。言葉の壁だ。
1時間後、一仕事終えて墓地の入り口まで戻ってきた。最奥部の扉は閉じてきたから、あの剣がまた誰かに取り上げられる心配は少なかろう。山賊退治に幽霊封印までしたこの遺跡は、いまやどこよりも安全な状態になっているのかもしれない。一晩の宿には十分だ。
山賊達の食糧からリンゴとトマトを失敬し、焼いた鮭とエールで軽い夕食をとる。
蒼白の淑女の祭壇近くで見た言葉の壁からは、「氷の体」の知識を得た。
古代ノルドの強靭な肉体は、蒼白の淑女さえ凍らせることができなかったようだ。
アルゴニアンの私は、彼女の冷気で全身しもやけになるところだったがな。尻尾がちぎれなかっただけでも良しとしよう。
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