大使館潜入に、資金援助はないのか、デルフィン。全部自腹か。隠密代わりに霊体化のシャウトも考えたが、あれは体が半透明になるだけで見つかる時は見つかる代物だ。
リバーウッドから出立して数時間後、ストームクラウンの嵐ならぬ尽きぬ溜息をまといながら、イスミールことドラゴンボーンの私はホワイトラン前の街道をとぼとぼ歩いていた。
落ち込んだ様子の私に、通りすがりの衛兵が「攻撃こそ最大の防御だ。なぁ従士様」と声をかけてくれる。私があまり金を持っていないのは、衛兵仲間では周知のことらしい。いつの間にばれた。
まあ、人の家でこそこそしていたらただの泥棒ではあるし、隠密もばれれば結局戦闘は避けられぬ。ドラゴンボーンたる者、常に正々堂々逃げも隠れもせず事に当たるのもありといえばありか。
しばらく歩くと西の監視塔が見えてきた。
ミルムルニルを倒してから、もう何年もたった気がする。せいぜい20日前かそこらのはずなのに。
監視塔は初めから廃墟同前の佇まいだったので、激しいドラゴン戦の前後で何かが変わった様子は見られない。真夜中の死闘を見なかった者も多いだろうし、ドラゴンの復活は、まだ実物を見ぬ者の間では相変わらずただのおとぎ話扱いだ。
さて、ドラゴンストーンの地図では、このツンドラ地帯にドラゴンの埋葬塚が一つあるようだ。
ホワイトランからかなり西。ロリクステッドの南辺りになるのだろうか。
この埋葬塚の様子を見てから、ラビリンシアンを通ってハイヤルマーチ地方へ入り、「友」の手紙にあったスカイボーンの祭壇を目指すつもりだ。
何事もなく旅が順調にいけば、今日はラビリンシアン近くで野宿ができるだろう。
大雑把な地図を頼りに道からそれて荒野をさまよう。
ドラゴンの墓は見つからないが、古い遺跡や墓の跡はちらほらと点在していた。
ここも3基の古い墓があり、3体のスケルトン達がさ迷う旅人達を狙って待ち受けていた。自分の墓から出てきてしまったのだろうか。寝つきの悪い古代人達には、もう一度眠っていただくことにした。
日が暮れかけ、今日はもうロリクステッドあたりにでも泊まろうかという頃。
彼方に舞うドラゴンの姿を見る。
普通のドラゴンより、体つきがごつごつした感じだ。まさか。
長く伸びた影が徐々に闇に包まれる中、ドラゴンに向かって全速力で駆ける。
最後の日差しが西の山脈に鋭く光って消えると、辺りは真っ暗になった。そして地上から放出される淡い光の柱が闇に浮かび上がる。
ここに埋葬塚があったのか。
駆けつけたと同時に、墳墓から骨のドラゴンが這い出てくる。
主が放つ蘇生のシャウトを受け、眠りから覚めたドラゴンは恭しく主の名を呼んだ。
アルドゥイン。カイネスグローブでのやり取りでも、その名は聞いていたかもしれない。
相変わらず何を言っているのか分からないドラゴン達の会話。
「ティード」は時を意味するような気もするが……。言葉の壁で綴りを見ないとだめそうだ。ドラゴンボーンの学びは、石に刻まれ、力の込められたドラゴン文字を知の扉とせねばならないようだ。
アルドゥインは飛び去り、あとにはヴォルジョツナークと呼ばれたドラゴンと私の二人っきりになる。
挨拶に揺るぎなき力を放とうとしたが、こう暗くてはドラゴンがどこにいるかも怪しい。
ヴォルジョツナークは私の挨拶に対して、氷の息で応えた。
冷気のブレスを吐くからには、火に弱そうだ。私は松明を片手にする。奴がこちらに顔を近づけてきたら、喉の奥にこいつを突っ込んでやろう。
アルドゥインじきじきに復活させられたドラゴンだけあって、ヴォルジョツナークはそこいらのドラゴンより強かった。松明の火も奴には線香花火程度のようだ。
とうとう私は幽体化のシャウトを叫び、逃げ出した。
幽体だけに、夜はうすぼんやり体が光って、かえって空を飛ぶドラゴンには見つけやすいようだ。
必死に走っても走っても、奴はぴったりついてくる。助けを求めたいが、ロリクステッドへ行くわけにもいかない。それ以前に、私はいったいどこの坂道を登っているのだ。迷わないよう街道を辿ってはいるものの、自分がどちらへ向かっているのかさっぱり分からない。
この林……。もしかしてファルクリース方面の道へ入ってしまったか。
広い街道の脇に、林へ消える土を踏み固めた小道が見えた。背の高い針葉樹の林に隠れて、いったんドラゴンを撒こう。
小道へ入り、林の奥に洞窟の黒々とした割れ目を見つける。なにか、誰かが私に声をかけてきた気がした。
その直後、ヴォルジョツナークが白い息を吐く。私は間一髪、洞窟へと転がり込んだ。同時に「はう……」という誰かの悲鳴を聞いた気がしたが、確かめる余裕もなかった。
いくらドラゴンでも、山を崩して洞窟を埋められはしまい。
今夜はここで一休みすることとしよう。
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