朝早くにホワイトランを出発し、昼前には宿へと到着する。
デルフィンは宿の入り口近くで私を待ち受けていた。
サルモールのスパイにつけられていないか、警戒していたらしい。
例の隠れ家へと下りると、彼女は早速自分の作戦を切り出した。
どうやらサルモール大使館が定期主催する晩餐会に客として潜り込むらしい。
次の晩餐会は今月20日に予定されているそうだ。一週間後か。
晩餐会に紛れ込むのはあなたよ、とデルフィンは言った。
私は目をぱちくりさせるだけだ。どこでどう間違って、私がこんな潜入捜査をするはめになるのか。
デルフィン曰く、自分はサルモールに顔が割れているから無理とのこと。顔を知られているのなら仕方がないが、私も潜入捜査みたいな繊細なことには一切向いていない。
彼女は大使館に務めるウッドエルフの給仕を味方に取り込んでおり、給仕に手引きさせるという。
仕事は一つ、サルモール第一特使エレンウェンの執務室から、サルモールとドラゴンの繋がりを示す証拠を見つけてくること。給仕に頼んで必要な装備はすべて大使館内に持ち込ませるから、あとは私の好きにやってもいいんだそうだ。
繊細だか大胆だかよく分からない計画だな。
私は明確な同意を示さないでいるのだが、デルフィンの方はどんどん話を進めていく。
ちょっとどこかで口を挟ませてもらえないだろうか。……無理か。
本物の招待状……。つまり私は正式に招待されることになるのか。しかしどういった身分で?
いくらサルモールのご機嫌取りを演じても、「関係者以外立ち入り禁止」区画へ入ろうとしたら絶対に止められそうだ。私は隠密はできない。かくれんぼも満足にできないほど下手糞なのだ。
給仕のマルボーンが心底サルモールを嫌っているのは、こちらとしても裏切られる危険が少ないのでいいが、私が大使館内で好きに行動したら、手を貸した彼に危険が及ぶのでは?
だからそんなことしたら、マルボーンがますます危険な立場に置かれるだろう。
こちらとしてもいいたいことは山ほどあったのだが、結局今回もデルフィンに押し切られてしまった。
……オーグナーがあんなに無口になった理由が、分かる気がする。
デルフィンは招待状を用意すると部屋を出ていき、私は一人取り残された。先ほどの作戦内容を自分なりに整理して、用意を整える必要がありそうだ。
本当にサルモールがドラゴン復活に関わっているなら、私にとっても彼らは敵となりうる。復活したドラゴン達が大昔のように再び人間を家畜と扱う時代を呼び戻すつもりなら、少々話し合わねばならない。そして今の時代、ドラゴンと語りあえる声を持った人間はドラゴンボーンしかいないのだ。
まあ私は人間じゃなくて獣人アルゴニアンだが。竜戦争の時代、私のご先祖様達はどこでどうしていたんだろうか。
私は目の前の机に残されたドラゴンストーンの写しを手に取った。デルフィンは場所を覚えているだろうし、貰っていってもいいだろう。それに彼女の興味は目下サルモールにある。
写しにはドラゴン達の埋葬塚が示されている。あいにく地図はあまりにおおざっぱで、塚の正確な位置は把握しづらい。
晩餐会までの一週間、いくつかの塚と言葉の壁を訪ねてみよう。使えるシャウトが増えるのは、悪いことではない。
忍びの行動に役立つ装備品も整えられればいいのだが。
ドラゴンの骨を売った金がいくばくか残っているのもあり、ルーカンの店へ寄ってみた。
「山賊にこっそり忍び寄って先手を打てそうなものはないか」とさりげなく尋ねると、ルーカンは首飾りを一つ出してきた。所持金の10倍の値段だ。
すまないルーカン、気が変わった。山賊には正面から正々堂々と戦うことにするよ。
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