昨晩荷物の整理をしていると、ソリチュード行きの手紙を二通見つけた。
すぐにリバーウッドへ発つのも癪だから、今日はソリチュードへ寄り道をしようと思う。
我ながら子供染みた決断に思うが、手紙配達での小銭稼ぎが今の私にはかなり重要事項なのだ。
なにしろ今日の分の食糧を買う金すらないのだから。
街道をゆくと、山賊の待ち伏せに会う。
運が悪かったようだな。私は無一文だ。
このような連中にシャウトの出番すらない。鍛え抜かれた拳一つで一人ずつ仕留めていく。
が、しかし。
戦闘の真っ最中に私を呼び止める者がいた。その外見から山賊一味かと殴り飛ばすところだったが、違うらしい。
なにやら急ぎであるのは分かるが、私も少々取り込み中だ。山賊の射手が矢を飛ばしてきて非常に危ない。
逃亡者は、「話している時間はない」と付呪つきの弓を押し付けてきた。
話している時間がないのは私の方だ。矢で射殺される前に開放していただきたい。
逃亡者を振りほどき山賊の射手を片づけると、逃亡者の姿は消えていた。
手元には彼の弓だけが残されている。持ち逃げしたら殺してやると言っていたのでしばらくその場で待っていたのだが、人っ子一人戻ってこない。
仕方がないので旅を再開することにした。ここで時間を食っていたら今日中にソリチュードに到着できない。
私は途中で街道を東側にそれた。
ロリクステッドで追いはぎ峡谷について聞いていたからだ。
川を渡る唯一の橋のむこうにねぐらを構えた山賊団がいるらしい。徒歩の一人旅であれば避けて通るのが賢明なのだそうだ。
ここからでも山賊どもが築いたバリケードがよく見える。かなりの規模の山賊団らしい。
アルゴニアンの私には、川を泳いで渡るのは何でもない。むしろ歓迎だ。
山賊のアジトを横目に、ハーフィンガル地域へと入る。道を外れて行かねばならないのが少々不安なところではあるが。
道中、奇妙な遺跡を見つけた。ノルドの地下墓地にも似ているが、これはなんなのだろう。
しかしいつまでも気を取られているわけにはいかない。
峠を一つ越えると、針葉樹の森に出る。
道が分からないが、とにかく北だ。ソリチュードは北にある。
しばらく森が続き、遠くまで見通せない。不安が大きくなる。
来た道を少し引き返すべきかと悩んでいると、ようやく森が終わり街道が目に入った。
街道の向こうにはハイヤルマーチの湖沼地帯も見える。どうやら少し東に行き過ぎていたようだ。
街道からはソリチュードの大都市を一目に収めることができる。
巨大な岩のアーチの上に立つ町。守りは固そうだが、なにかあってもどこへも逃げられない立地にも思う。
絶景を見ながらのんびり歩を進めていると、突然オークの戦士が剣を振り上げ襲いかかってきた。
彼女曰く「お前を倒せば栄誉が手に入る」。なんのことだ。
まともな言葉を交わす間もなく拳を交え、どうにか打ち勝つことができた。
どうやらドラゴンボーンを倒して、有名人になりたかっただけらしい。
この間のミラークの信者どもといい、厄介な名声を得てしまったようだ。グレイビヤード達が私を召喚した声は、スカイリム全土に響き渡っていたようだ。
オークとの戦闘で回復薬が尽きてしまった。
今後のことを考え、私は錬金術の素材を集めることにした。素材を細かく砕いたり溶液に浸してぐつぐつ煮たりといった丁寧な調合作業は一切向いていないのだが、生かじりでも効果を発揮してくれるものがあればいくらでも食べらる自信がある。
この蝶々の羽を食べると、傷の痛みによく聞くそうだ。
蝶々や花を摘みながらだったので、ドラゴンブリッジへ到着したのは午後も遅くになった。
見事な橋だ。橋のたもとに蝶々がいないだろうか。傷薬の代用にするには、まだ数が足りないのだ。
こじんまりとしたのどかな場所だ。
帝国兵の宿舎があるのが多少物々しいが。
ここからソリチュードまではいくばくもない。もう少し踏ん張って歩こう。
この辺りはスカイリムでもかなり北部に位置する。寒いはずなのだが、雪がほとんど見られないところからすると、海流の影響でもあるのだろうか。
もっとも山の上はさすがに雪深いようだ。
ソリチュードまでの道は衛兵と帝国軍に守られており、スカイリムでも屈指の安全な道だ。
山からサーベルキャットが下りてきても、兵士達がすぐに片付けてくれる。
しかしこちらの御仁は兵士には見えないな。物憂い様子でぼんやりと山を眺めている。まるでサーベルキャットを倒し足りないようだ。
彼は死に場所を求めてさまようオークの戦士だった。
老いてベッドの上で死ぬより、戦って死にたいらしい。むしろそれがスカイリムのオークの生き方だそうだ。
私について来れば、ドラゴンと戦って死ねるかもしれないぞと誘ってみるも、彼はドラゴン自体を信じてくれなかった。ここで次のサーベルキャットが山から下りてくるのを待つという。
色々な生き方があるものだ。私も自分の記憶を取り戻すのはあきらめ、新しい人生を歩むべきかもしれない。
感傷的な思いに浸りながら夕日を眺めて歩いていると、ソリチュードの見張り塔が見えてきた。
立派な門構えだ。
ホワイトランやウィンドヘルムの壁と比べると、だいぶ新しい時代の物に見える。スカイリムの建築と言うより帝国様式なのかもしれない。
スカイリムで最も洗練された都市を訪れた私を待っていたのは、公開処刑だった。
特に興味もないのでさっさと通り過ぎるつもりでいたのだが、見物人達の言葉に思わず足を止めた。
死刑囚は、ウルフリックを逃がした罪で捕えられた門番らしいのだ。
ヘルゲンでのウルフリックの罪状の一つが、上級王殺害だった。
内戦の戦闘でぶつかり合ったわけではないのか。
ウルフリックは古代ノルドの作法に則り、ソリチュードへ赴いて上級王に決闘を願い出たらしい。
帝国の法ではこういった決闘は認められていないし、決闘で相手を殺せば当然殺人になるのだろう。しかし門番はノルドの伝統を尊重し決闘の結果を受け入れ、殺人者として追われたウルフリックのために閉ざしていた門を開けたという。
内戦とは悲しいものだ。
死刑囚もノルドなら、刑を執行する隊長もノルドだ。
厳しい表情を崩さぬまま門番を首切り台に跪かせた隊長だが、処刑が終わって見物人を解散させる彼の背中には死刑囚への哀悼が垣間見えた。
ひどい見世物だった。しかしヘルゲンでも一歩間違えれば、私もあの門番と同じ末路が待っていたわけだ。
まあ彼が門を開けなければ、ウルフリックはあそこで捕まり私もヘルゲンであんな目に合わずにすんだのだが……。いや、そもそもウルフリックが上級王に決闘を挑んだ時点で捕まえてしまえばよかったのだ。
まあ、とりあえずウルフリックが全部悪いということにでもしておくか。
手紙を届けた礼金は、思っていたより少額だった。宿代は出せたものの、食事は……。
幸い今日は川や道端で様々な素材が集められた。今後の為にもこれらを食して、効能を確かめることにしよう。
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