鎧を来たままテーブルに突っ伏して寝ると、たとえ数時間でも寝覚めが最悪だ。
さて、手に入れた石板を一刻も早くファレンガーに持っていこう。
その前に、持ち物袋の中で邪魔になってしょうがない金の爪を売り払ってしまおう。
雑貨屋を訪ねると、店主はまだ盗賊にとられたもののことで胸を痛めていた。何がなくなったのか尋ねると、本人は純金の爪だというが。そこのヤギのホールチーズより軽い爪ならたぶん持っているな。
私が爪を袋から取り出した時のルーカンの顔は、なかなか見物だった。妹のカミラは彼のことを大きな子供みたいだと言っていたが、そうかもしれない。それくらいの喜びようだ。よほど大切な品だったのだろう。
よほど嬉しかったのだろう。ルーカンは礼としてすぐさま400ゴールドを出してくれた。私も思いがけない収入を得て、嬉しいことこの上ない。今夜はホワイトランでホニングブリューを数本空けられそうだ。
ハチミツ酒醸造所の裏手の坂あたりから、天気は下り坂になった。ずぶ濡れだ。
門を入ったところでジェナッサと別れた。
また危険な場所に行く羽目になれば、よろしく頼みたいものだ。
大木の広場では、いつもの司祭が一人で演説をしていた。
住人の話では、毎日ああだという。すでに彼は広場の日常風景の一部になっていて、普段は暇で暇でどうしようもない人間くらいしか聞きに来ないようだ。彼が風邪でもひいて現れない日があろうものなら、その方が異常に感じられるくらいかもしれないな。
ドラゴンズリーチ。ホワイトランが誇るだけあって立派な建物だ。
王宮魔術師の部屋を訪ねると、ちょうど来客中だった。相変わらず古代の文書の研究か。
ファレンガーは首長がドラゴン研究に関心を示し始めたことで、機嫌がいい。
しかしそこの来客はリバーウッドの宿の女主人ではないか。
女主人とドラゴン研究の話で盛り上がっていた魔術師だが、ようやく私の存在に気付いてくれた。
ヘルゲンでドラゴンが現れなかったら、いまでも首長は役立たずばかりをそちらに寄越していただろうな。もし私が見つけてきた石板が役に立つなら、きっと首長はさらに予算を研究に回してくれるに違いない。
宿の女主人デルフィンも、驚いている。しかし片田舎の宿の女将が首長の館にいるというのも、なかなか驚きだ。宿に立ち寄る旅人の情報でも流しているのか。
石板を引き渡しているところで、首長の私兵が部屋に飛び込んできた。
なんとドラゴンが目撃されたという。
西の監視塔から、衛兵が一人知らせに来ていた。
ヘルゲンの次はここだとでもいうのか。荒野にぽつんと大きな館がそそり立っているのだから、目にはつきやすかろう。ドラゴンズリーチの屋根は、ドラゴンの止まり木にもちょうどよさそうだ。
首長は私兵にドラゴン退治を任せたが、私にも協力を頼んできた。
確かに私はヘルゲンを生き延びたが、あくまでも生き延びただけだ。実際に戦っていたのは、帝国軍の将軍と兵士達だったからな。
……ただ報酬を用意してくれるとのことで、そういうことなら引き受けざるを得ない。よそ者に土地の購入許可を与えるのは、よほどのことなのだろう。
ヘルゲンではただ逃げただけだ。今度は対面し、撃退するか退治するかしなくてはならない。
あまり気が進まないのは集められた衛兵達も同じのようだ。しかし私兵イリレスの励ましは、我々を勇気づけた。
特にノルドである衛兵達にとって、ドラゴン退治の栄誉は古代ノルド戦士にも並ぶ名声を得るに等しい。末代まで語り継がれる英雄になれるのかもしれないのだ。
衛兵の中には、西の監視塔に従兄弟がいると話す者もいた。無事だといいのだが。
しかしすっかり日が暮れてしまった。こんな暗闇で戦えるだろうか。
監視塔への道中、またしてもあの旅人とすれ違った。ヘルゲン以来どうもよく会う。向こうもそう思っているかもしれない。アルゴニアンの顔を彼が見分けられるなら、だが。
それにしても命がけの戦闘へ向かう道中、アーケイ司祭に鉢合わせるなど縁起でもない。絶対に生きて帰るからな。
監視塔付近には、焦げ臭い匂いと小さな炎が残っていた。
ドラゴンの炎に焼かれたのか、炎の魔法で襲われたのか。これだけではよく分からないな。
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