なかなか装備が整わない。
王宮魔術師との約束もそうそう先延ばしにはできないので、ブリークフォール墓地へ下見に出かけることにした。
朝から雨とあいにくの天気だ。
墓地は川向こうの山にある。ハイ・フロスガーでの山登りに比べれば、随分楽なものだ。
道中の狼も、キナレスの祝福のおかげで襲って来ない。
山道を黙々たどっているうちに、晴れ間が見えてきた。ずいぶん高くまで登ったものだ。
今回も後悔先に発たずなのだが、袖なしのボロ服で雪の残る山に登るものではないな。
いい眺めだ。リバーウッドの村があんなに遠くに見える。
近くに見える建物は、ずいぶん古そうだ。スカイリムにはそこかしこに史跡だか廃墟だかよく分からない建造物が残っているな。
不用意に塔へ近づき、失敗した。
どうやら山賊が見張り塔として使っていたようだ。私は近眼なので、よほど近づかないと人の姿が認識できない。
三人ばかりいた山賊たちを素手と盾で殴り倒し、塔からの眺めを満喫する。
なるほど。ヘルゲンからリバーウッド方面の道が丸見えだ。商品を満載した荷車でも通ろうものなら、すぐに合図を出して襲えるだろう。もしかしたら、あの道のどこかに山賊の拠点が隠れているかもしれないな。
見張りの塔からさらに登ると、とてつもない規模の遺跡が姿を現した。まるで竜のあばら骨を思わせる独特の形の巨大アーチが連なっている。
麓のリバーウッドどころか、ヘルゲンからでもその外観が望める立派な墓地だ。
こんなところに埋葬された人物とは、さぞ巨大な権力を持っていたに違いない。
墓荒らしのつもりか、遺跡周辺にも山賊達がいた。すでに内部にも何人か侵入しているようである。
頼まれた石板が持ち出されていなければいいのだが。
遺跡の入り口付近で、山賊達の会話を盗み聞く。
彼らの仲間が一人、「爪」を持って先に奥へ行ってしまったようだ。ということは、奥の方はまだそれほど探索が進んでいないということか。
姿を現さねば奥へと入れなかったので、先ほどの山賊達には大人しくなっていただいた。先に奥へいった連中とも、交渉ができなければ盾と拳で語り合うことになりそうだ。
遺跡内部には木の根がいたるところまで侵入している。いったいどれほど古い時代の墓だろう。
いくつかの通路は過去の天変地異などで道が崩れて塞がってしまっている。
所々で明かりがついているのは……。先に入った山賊達が灯したのだろうな。
鉄格子の下りた部屋で、山賊の姿を見つける。彼は鉄格子を開ける仕掛けに手を出したが、こういう墓では罠がつきものだ。山賊を倒す手間と、罠の動作を確認する手間が省けた。
罠を外して鉄格子を開け、先のらせん階段を下りる。
下ではスキーヴァが待ち受けていたものの、キナレスの加護で襲われずにすんだ。それほど強くはない生き物だが、群れで襲われると危険な相手だけに心底ありがたい。
罠と害獣以外はさほど危険もない墓を探検する。
奥から声が聞こえてきたが、どうやら「爪」を持って先に入った例の山賊らしい。
これは……。目の多すぎる奴だな。ヘルゲンで見た個体より大きい気がする。
これにはさすがに苦戦した。山賊達から拝借した傷薬がなければ負けていたかもしれない。
例の山賊は、蜘蛛の巣に捕えられていた。
黙らせるならこのままやってしまえばいいのだが、少し話を聞いてみるか。
「金の爪」とは、この墓地に関係するなにか特別な品らしい。金というから爪そのものが宝物のように思えたが、違うのか。爪はただの鍵らしい。では鍵を開けた先には、もっとすごい宝があると?
まさか王宮魔術師が言っていた石板一枚だけではないだろうな。
蜘蛛の巣から降ろせば爪を渡すと言うので、言われたとおり降ろしてやった。
予想はしていたが、隙を見てさっさと逃げはじめる山賊。
韋駄天の異名通り、なかなか足の速い奴だ。
しかし古代の遺跡で闇雲に奥へ奥へと逃げるのは危険極まりない。私はすぐに足を止めた。ここに来るまで分かれ道もなかったから、後からゆっくり追いかければいいだろう。
前へ |
次へ