今日は天気が悪い。いつ雨になってもおかしくはないだろう。袖無しなので、風の冷たさが耐え難い。
こんな天気だというのに、あのウッドエルフは朝五時台に村近くの林を散歩していた。なにやら手紙を雑貨屋の娘に届けるよう頼まれたのだが、ヘルゲンから帰ってきてからでもいいかな。急ぎではないようであったし。
道中、守護石があったので旅路の安全を願っておく。
守護石の近くでは、狩人がテントを張っていた。密猟がどうのとか言っていたが、自分に必要な分しかとっていないらしい。この国では首長の許可でも得ないと狩りができないのだろうか。
正午近く、ようやくヘルゲンが見えてきた。まだ焦げ臭さが鼻につくが、火事はおさまっている頃だろう。ヘルゲン壊滅の話が辺り一帯に広まっているから、こそ泥や山賊が集まってくるのも時間の問題だ。
多少の警戒心を持ってヘルゲンへ入った。どうやら人影はない。
今のうちに探し物をすませてしまおう。
脱出時の戦闘でいくつかの死体が砦内部にもあったはずだが、見当たらない。帝国軍が収容したのかもしれない。
そういえばハドバルとかいう若い兵隊はどうなっただろう。あの時、塔の上にとまって私を睨み付けていた竜との間に、割って入ってくれた。あれは並大抵の勇気ではない。彼ならきっとどこかで生き延びているはずだと思いたい。
あった。これだ。つくづく見るに自分の持ち物だった気がしないでもないが、綺麗さっぱり記憶をなくしているので、やはり真相は分からない。しかし本のことが妙に気になるのだ。
タロス教団によるドラゴンボーンの書。
この本の持ち主は、ずいぶん丁寧に本を扱っていたらしい。汚れのシミもなければ書き込みの形跡もない。
内容自体は第三紀360年とあるから、数百年前のものか。
内容は題名通り、ドラゴンボーンがどういうものであるかについてだ。
帝国の皇帝が代々ドラゴンボーンと呼ばれていたので、ドラゴンボーン=皇帝の血筋という一般認識となっているが、正確には少し違うらしい。ドラゴンの血を持ち、ドラゴンの力を奪える者を指すのだという。
ドラゴンボーンは特にノルド達にとって特別な存在のようだ。
巻末に書かれている予言といい、この本を読んで最後のドラゴンボーンに思いを馳せ、ノルドの故郷であるスカイリムに興味を持つことはあり得そうだ。
本の内容をだいたい頭に入れ、ヘルゲンを後にした。リュックも本もあった場所に残しておく。私の物であったなら、いるどうかも定かでない私の連れが、あれを見つけて私を探す手がかりにするかもしれない。
帰りは山間の道を通ってリバーウッドへ戻ることとした。
ハイフロスガー巡礼の効果はまだあるようで、臆病なはずの野うさぎも私のことなど知らんふりで逃げようともしない。
獣達の姿を観察しながら山を下ると、もう村が見えてきた。行きで使った道よりこちらの道が随分早いようだ。急な山道を厭わなければだが。
今日はヘルゲンへの往復で1日を終えるつもりでいたので、いくらか時間を持て余すことになった。
私は早朝に頼まれたファエンダルからの手紙を思い出し、雑貨屋のカミラを訪ねた。
レイロフの義兄は彼女について少々失礼な見方をしていたが、この反応ではあながち間違いでもなさそうだ。
だが私はもうさほど若くはない。人間種にアルゴニアンの年齢はよく分からないだろうから、仕方はないか。
手紙をカミラに渡しておく。私はてっきりファエンダルの恋文かと思っていたのだが、内容はスヴェンというあの吟遊詩人に成りすました騙りだった。
汚いやり方に憤慨するカミラだが、私も私なりに少し思うところはある。結論から言うと、スヴェンもファエンダルもどっちもどっちだ。
さて、今日の予定もここまでだ。
明るいうちに宿へ夕食に向かえるのはいい。
雑貨屋で鉄のすね当てと小手を購入しておいた。鎧はまだ手が出ない。
この格好で村を歩いていると、衛兵に「密売人か」と声をかけられたのだが、どういうことだろう。非合法なものは何も持っていないのだが。そもそも物らしい物も持っていない大貧民なのだが。
手紙についてスヴェンと話すと、一方的に感謝された。
礼だと言って差し出されるゴールドは、ありがたくいただいておいた。なにより懐が寂しい今、差し出されるものはなんでもいただいておかねば食っていけぬ。
恋に破れたファエンダルがふらふらと夜の酒場へやってくる。スヴェンは即興の歌で彼をからかった。
小さな村でのこういった噂は、またたくまに広がるものだ。ファエンダルも当分は針のむしろのような生活になるだろう。しかしひと月も経てばまた、変わりばえのしない日常に戻るものだ。
そして私の夕食も変わりばえがない。
安く手に入るバターに、焼き鮭とニンジンをつけながらかじるのである。
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