朝6時半ごろ私は早々に宿舎を離れ、ホワイトラン行きの馬車へと乗り込んだ。
やれやれだ。この町の猥雑さはむしろ好きなのだが、盗賊ギルドの存在ははなはだ迷惑だ。市門近くで女戦士と若者の立ち話から漏れ聞こえた、「全てはメイビン・ブラックブライアが仕切っている」というような話も嫌な感じだった。昨晩の酒場で、武器を扱う商人が彼女にストームクロークへの輸送を頼んでいたが、これでは頼んだ武器がまともに配達されるかどうかも怪しいものだ。
馬車に揺られること12時間弱。
ようやくホワイトランへ到着だ。長かった。だだっ広い荒野の端だ。リフテンとはまた違った趣がある。明らかにこちらの方が歴史が古そうだ。
門を通ろうとして、またしても衛兵に止められた。また訪問者税か。
さみしい懐を探っていると、衛兵が通行止めの理由を話してくれた。税を取られるわけではないのか。
ヘルゲンでの出来事が知りたいなら、少し話ができるかもしれない。記憶を失くした私には、唯一の財産ともいえる体験だ。
衛兵にドラゴンズリーチを訪ねるよう念を押され、門を通してもらった。
これがホワイトランか。リフテンと比べると田舎っぽいが、木造の家屋が優しい色合いでなかなか美しい。
ヘルゲンでの出来事は、すでにスカイリム中に知れ渡っているようだ。ということは、反乱軍の首領が逃げた話もか。多くの人の関心事は、どちらであろうか。
ドラゴンの話には半信半疑の者も多いようだ。
日が暮れるな。今夜はホワイトラン首長に会ったら、すぐに宿をとらねばならないだろう。
しかし大きな木だ。枯れ木であるのが惜しい。
演説か?
町ならではの賑わいだ。聴衆が一人としていないのに、彼の言葉には力がほとばしっている。
首長の館ドランゴンズリーチへ。夜が更けて建物の外観を一望するのは叶わなかったが、内部もそうそうたるものである。見事な木造建築だ。壁の向こうに掛けられているのが、噂のドラゴンの骨か。
首長は今まさに、家来達とヘルゲンでの事件について審議中だった。
ドラゴンに滅ぼされたという噂をどこまで信じてよいか、揉めていたようである。
私はヘルゲンでの出来事を出来うる限り、詳細に話した。しかし、どこの馬の骨とも分からぬ放浪者、しかも反乱軍と一緒に首を落とされかけた輩の言葉である。
信じてもらえるかと半分はあきらめていたのだが、彼は私の態度や言葉から、少なくとも嘘を言っていないことは感じ取ってくれたようである。
彼はすばやく家臣に命じ、ヘルゲン近郊の村、リバーウッドへ衛兵を送るよう指示した。
さらに私の報告にたいして、帝国軍の軽装鎧を褒美として与えてくれた。気持ちは嬉しいがこれを着てリバーウッドへ行ったらレイロフに殺されかねないので、後で売ろう……。
まだ何かあるらしい。私に仕事をくれるというのか。特殊な才能というのが少し引っかかるが。私が見たドラゴンは幻視などではないからな。
首長自らに案内されたのは、王宮魔術師の部屋である。
ドラゴン研究?
彼は以前からドラゴンについて研究を重ねていたらしく、竜教団時代にさかのぼる古い石板を私に探してきてほしいとか。
実際に目にしたドラゴンより、存在が怪しげな石板の話だ。
石板が今回のドラゴン騒ぎと何の関係があるのかと尋ねると、魔術師は驚いた。
そんなに驚かれるほどの質問だったのだろうか。
彼の話によると、根拠となる情報の出所は秘密だが、リバーウッド村近郊のブリーク・フォール墓地にあることはほぼ確実だという。ということは、墓地は未発掘、もしくは未探索。そこを探して来いというのか。
しかしドラゴンの墓が記録されているとかいう石板を見つけて、なんになるのだろうか。魔術師の説明を聞いてもなお分からない。
どうやら私は首長にうまく乗せられたようだ。
彼としては降って湧いたようなドラゴンの脅威の真偽はともかく、何らかの原因によるヘルゲン壊滅という事実を受け、リバーウッドに兵を送るのは現実的対処として必要だったのだろう。
一方で、魔術師の石板の話はまだおとぎ話の域を出ていない。反乱軍の問題もあるなか、どこまで価値があるのか不明な石板の為に兵は出せないはずだ。そこで私のような放浪者、しかもヘルゲンでの事件を述べるためにやってくるだけの義務感を持ち合わせているお人好しの出現は都合がよかった。私を任に当てれば、首長も魔術師もお互いの面目を保ちつつ、あわよくば成果を得られるのだから。
石板探索を約束し、首長の館を後にする。
市門の近くで、首長の私兵が衛兵達をリバーウッドへ送り出すのを見た。ホワイトランからは数時間でつくそうだが、こう暗くては道がおぼつかない。私は明日、村へ向かうことにしよう。
首長の館へ行く前に目を付けていた宿、バナードメア。
馬の頭をシンボルに掲げるホールドだけあって、馬には特別な愛着があるようだ。宿にも馬の意匠がある。
ここがこの町一番の賑やかな酒場と聞いていたが、思っていたより家庭的な雰囲気で居心地がいい。
馬車賃で懐が寂しくなっている。今夜はリーキのグリルをバターにつけながらの食事だ。
着ているものは相変わらずボロキレだし、酒場の客達には物乞いにしか見えないのだろうな。
背中からの視線が痛い。
宿泊費を出した時の女将の怪訝そうな顔! 稼ぎの良かった物乞いが、一日限りの豪遊で部屋を借りたのだと思っているに違いない。
明日はリバーウッドに発とう。そして何か仕事をみつけよう。私とて、いつまでもこのみすぼらしい格好を続けたくはないのだ。
前へ |
次へ