冷気が鱗を刺す気持ちのいい朝だ。近くの山があまりに高いからあまり意識しなかったが、この辺り一帯も高原で元々の標高もそれなりにあるようだ。
昨日の巡礼で受けた祝福も続いているらしく、獣たちは私を見ても警戒するそぶりを見せない。道中のクマも怖くないだろう。
村を出て早々、ステンダールの番人達に出会った。
彼女達に太っていることを指摘されたが、これは狼に引っかかれて関節症を患い、腫れているだけである。
彼女達は親切にも、治療薬をわけてくれた。ちょうど巡礼の祝福を受けている身だし、お礼にキナレスの慈愛をあなた方に祈ろう。
早朝の散歩には最高の天気だ。森も美しい。
森が尽きかけたところで、今度は三人組の酔っ払いに出会った。朝っぱらからすっかり出来上がっている。
彼らはどこから来たというのか。近くには町も村も見えない。まさか昨日の夜から飲み歩いて、こんなところまで来たわけではないと思うが。
しきりに酒を勧めてくるので、こちらも受けてたつことにする。
アルゴニアンもしくは私個人は、アルコールに強いのだ。ノルドの酒豪ごときに負けはしない。
ひとしきりハチミツ酒を楽しんだ後、酔っ払い達は帰途についたようだ。
どこへ帰るのかと尋ねるも、いかんせん泥酔の酔っ払いであるからまともな返事はもらえない。
帰巣本能はかろうじて働いているようなので、後をつけさせてもらう。
途中、製材所を通るが、彼らはここの労働者というわけでもないらしい。橋を渡ってまだ進もうとしている。
帝国軍兵士を護衛に連れた貴族の夫婦も同じ方向へ向かうようである。道連れは多い方がいいだろう。人数が多ければ、山賊もこちらを襲撃しにくくなる。
街道の少し先を歩いていた酔っ払いの姿が見えなくなったと思ったら、一人がすでに息絶えた状態で道端に倒れていた。スキーヴァにでも不意をつかれたのか。
突然貴族達の護衛が剣を引き抜く。道の曲がり角の向こうで、残りの酔っ払い達の怒号が響いていた。
なんということだ。曲がり角の向こうには、山賊砦があったのだ。あの酔っ払いは彼らのペットに食い殺されたか。砦からけたたましい犬の吠える声が聞こえる。
私は盾を構え、酔っ払い達を守るために走り出した。千鳥足ノルドが勝てる相手ではない。
数人の山賊を殴り倒した直後、背後で矢をつがえる音がした。
私ははっとして振り返り、思わずやめろと相手に掴みかかるところだった。
酔っ払いが弓を持って背後に立っている。加勢をしてくれようというのだろうが、正直言ってここまで信頼できない後方支援はない。山賊の武器を拾ったのだろうが……。
酔っ払いに気をとられていた隙に、山賊長が両手槌を振りかぶって踊りかかってきた。
あわやというところで、山賊の飼い犬を相手にしていた貴族の護衛が駆けつけてくれる。
敵の数も残り少ない。このまま押し切れるか?
伊達に山賊の頭をやっているわけではないことを思い知る。
しかしここで我々二人が伸びてしまったら、誰が彼らを守れるというのだ。
山賊長の槌を何度も盾で受け、時に頭蓋骨をかち割られる幻覚を数えきれないほど見ながら、辛くも勝利した。いや、何とか生き残れたというべきか。
可哀そうに、貴族の妻は亡くなってしまった。夫を守ろうと、山賊長にダガー片手に突進していったのだ。あそこまでの勇気は私にはない。
酔っ払いも生き残ったのは彼だけのようだ。意外なことに彼の正確な射撃は、山賊長退治に大きく貢献していた。戦いの興奮は酒気を一瞬で蒸発させる。ノルドであればなおのこと。
酔いの醒めた彼は、戦いの終わった場所で立ち尽くしていた。かける言葉がない。砦の外の山賊は一掃したから、しばらくは安全だろう。私は先に失礼するが、友の亡骸を埋葬する時間は充分確保してやれたと思う。
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