わずかな間とはいえ、同じ鎖につながれたレイロフとは浅からぬ因縁がある。
ハドバルにはレイロフとひっくるめて「お前達全員、あのドラゴンにソヴンガルデへ連れて行かれちまえ」と言われたので、とりあえず彼の後に続いて砦へ避難した。
彼は砦に倒れていた同志の鎧を剥いで着替えろという。彼の気持ちも状況の必要も理解しているが、お断りする。私は死体を漁りたくない。記憶を失くしても、個性は残っているようである。むろん、今の私が以前の私と同じ性格を維持しているかどうかは神々のみが知るところであるが。
そしてもう一つはっきりとしているのは、私は金物を武器として身に帯びるのは、あまり好かない性質だということだ。
鎧を剥げ、剥がないと押し問答をしているところで、帝国兵の声が聞こえた。今の私は反乱軍兵士とともにいる。衝突は避けられまい。
声の主は「リストは関係ない。死んでもらうだけよ」と私を処刑しようとした隊長だ。
恨みはない。恨みはないが状況が状況なので、手加減なく正当防衛をさせていただく。
レイロフは反乱軍に入っただけあって、随分たくましい神経を持っているようだ。
伝説だったはずの竜の出現を逃亡のチャンスに利用し、友の死体も無駄にせず、重装備の帝国軍隊長にも怯むことなくみすぼらしい鉄の斧で処理してしまった。
砦内部には先に避難した帝国軍兵士の姿があった。
無実の罪で反乱軍と一緒に捕まった私は、くしくも反乱軍兵士に力を貸して逃亡する身になっている。正真正銘のお尋ね者とみなされても言い訳はできないだろう。
レイロフと一緒にいる私を見た帝国軍には、ひとり残らず口を閉じていただくつもりではあるが。
砦にある物資を拝借しろと、再びレイロフが言う。
口封じはしても盗みはしたくない。しかし状況が状況なので、用心のために傷薬だけは貸していただこう。うまくここを抜けられたら、どこかその辺にでもお返しすることにする。私は柔軟なのだ。
牢屋で拷問官にスープレックスを決めたところで、あるものに気が付いた。
柱の影にあるリュックと本には見覚えがあるような気がする。私の所持品だったのだろうか。
確証はないので、とりあえず手を付けずにおく。
牢屋にはどこからか侵入した反乱軍兵士がいた。首領を助けに来たのかもしれない。
今度は鍵のかかった牢屋を開けて、死んだ囚人の財布を奪えとレイロフが言う。
この男はどうしてこうも私を犯罪の道へ誘うのか。死体漁りは人として唾棄すべき行いであるし、施錠された鍵をピッキングするのも盗賊の領分だ。
断る。
牢と拷問部屋には反乱軍の囚人もいた。助けるには手おくれのようだが。
逃げる道の背後で、次々と天井が落ちる。竜はまだ外で暴れているらしい。
恐らく村は壊滅だろう。
先の道は天然の洞窟とつながっていた。ここは蜘蛛の巣らしい。
レイロフは目がたくさんあるのが苦手らしいが、私は足が多いのが苦手だ。蜘蛛は許容範囲である。
洞窟には熊も住んでいた。こちらは寝ているのでさして害はない。脚の本数も許容範囲である。
洞窟を抜けると同時に、ひとしきり暴れた竜が上空を飛び去って行った。我々は竜からも帝国軍からも逃げきったようだ。
レイロフは帝国軍が探しに来る前に逃げた方がいいという。
レイロフ:ここで別れた方がいいだろう。幸運を祈る。
彼はこの先にあるリバーウッドへ身を寄せるという。さて、私はこれからどうしようか。
記憶もなければ持ち物もない。しかしどうやら私はこの地を目指して旅をしていたらしい。
知り合いを訪ねに行こうとしていたかもしれないし、ここが故郷だったのかもしれない。旅に連れがいたのかどうかも怪しい。連れがいたなら、いつか私を探しに来てくれるのだろうか。
先ほどまでは死刑囚だった。そして自由になった今、ついに私は自分の意志でスカイリムに一歩をしるすことになる。
行くあてに困り、危険ではあったが竜が去ったすぐのヘルゲンへ戻ってみた。
兵士の姿も村人の姿もない。完全に焼き払われている。あの将軍は無事だったのだろうか。逃亡の最中、彼の部下を何人か葬ってしまったので、顔を合わせずにすんだのは幸いだったかもしれない。
地理が分からないので、自分がどちらに向かっているかもさっぱり不明である。道なりに行けばどこかへたどり着くだろういう漠然とした望みしかない。
日が暮れるまでに人里へたどり着ければいいが。
とぼとぼ歩く道中、背後でドサリという物音がした。最初は空耳かと思って足を止めずにいたが、ふと気になって引き返してみる。
こんなところに馬の死体が転がっていただろうか。これが音の正体か。
空……から降って来たのか?
分からない。分からないが、ここは少々不思議な土地らしい。気にしないことにする。ついでにヘルゲンでお借りした薬類は馬の荷袋に入れておいた。
日が傾きかけた頃、街道に荷車が見えた。倒木に道を阻まれたのか。いや、死体がそこかしこに転がっている。
嫌な予感は瞬時に現実となった。隠れていた山賊達が私をカモとみなしたようである。
アルゴニアンの革は高価なバッグにでもなるのだろう。尻尾のベルトも山賊界では人気のようである。無一文でも見逃してもらえないのは何とも不運な生まれだ。
目の前の山賊を素手で殴り倒していたが、どこからかしつこく矢を射かけてくる者がいる。たまらず山賊が手にしていた盾を拾った。これはなかなか便利だ。
盾で身を守りつつ山賊を返り討ちにした。素手の相手に負けるとは、彼らも想像だにしなかっただろう。戦闘の記憶が、頭でなく体に刻まれていたのも幸いであった。私はそれなりの戦士だったのかもしれない。
荷車近くに倒れていた死体はすべてカジートだった。同じく尻尾を持つ仲間として、同情を覚える。カジートからすれば、頭の上に可愛い三角耳を持っていない生物は仲間とはみなせないかもしれないが。
宵の口、再び山賊の襲撃にあった。この道は彼らにとって狙い目なのだろうか。
さすがに戦闘続きで体力の消耗が激しく、気が遠くなりそうだ。
日が暮れきる前に、今夜の野営地を見つけねば。街道から少しそれると、崖に岩のひさしが見える。あの下で夜露をしのげそうだ。
残念なことに、先住者がいた。野生の獣を殴るのは好かないが、彼らの夕食になるわけにもいかない。彼らの縄張りをおかした非礼をわびつつ、応戦する。今夜だけは許してほしい。朝から予定外の出来事でくたくたに疲れているから、もうここで眠りたいのだ。
長い一日がようやく終わる。
この道がどこへ通じているかは知らないが、明日には宿場町の一つでも見つかるだろう。
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