少し腹がもたれる気がする。昨晩、腹が減っていたからとスキーヴァーの皮を4枚も食べたのが悪かったか。
ダンスタッド砦を出発した私は、ペイル南部の林の中を歩いていた。
天気は快晴で、気温もそこまで低くはない。
林の中をフロストスパイダーが一群れうろついているが、彼らは私を無視している。キナレスの恩恵は蜘蛛にも及ぶのか。
平和な旅だ。
さらに進むとマンモスが遠くに見える。もしかしたらあれもキナレスの恩恵で私に敵意は向けないかもしれない。
むろん、近づいて試すつもりは全くないが。
道を西へ折れ、雪の林をどんどん進んでいく。時折道の両脇に珍しい建物の影が見えるのだがあれはどういった建造物だろうか。
興味を覚えてそのうちの一つを視界に収められる場所まで行ってみた。
小さな窪地を埋める見事な石と金属の建造物は、ノルド達のものではないようだ。うわさに聞いたドゥーマー遺跡だろうか。
雪景色の遺跡に感心していると、矢が私の頭をかすめて飛んで行った。
足元の崖を見下ろすと、山賊達がこちらへ向かって登ってきている。どうにも私はうかつな行動が多いな。昨日反省したばかりだったというのに。
歴史的建造物もいまや山賊の手に落ちる憂き目にあっているようだ。学者達や魔法使い達はなにをしているのだろう。戦乱で発掘どころではないのだろうか。
山賊や遺跡荒らしにはいい時期なのかもしれないが。
また山賊だ。ペイルに入ってから異常に多い。
こいつにも私の盾をお見舞いしてやろう。
先ほどの山賊は、旅の錬金術師師弟を襲ったところだったようだ。ひどい光景だ。土が凍りついていなければ、墓を掘ってやれたのだが。
ハイヤルマーチの鉱山町ショールストーンに到着した。
道なりに行けば首都のモーサルへ出るし、少し道は外れるが北西に向かえばウステングラブのある湖沼地帯に出れる。
ここで昼食をとろうと村の者に酒場の位置を訪ねる。
最初に声をかけた男は、鉱山の管理者だった。鉱山を所有しているのはブライリングというソリチュードの従士で、彼女は非常に怒りっぽいらしい。「鉱山からの荷はもうすぐ届く」と知らせたいというので、なんとなく手紙を届けるのを引き受けてしまった。
今の私には届け物をするくらいしかできない。
謝礼は向こうの言い値だが、それは仕方がない。はやく首長から山賊退治やドラゴン退治を引き受けられる腕前になりたいものだ。
軽く食べて湖沼地帯へ下見に出てみた。
針葉樹の林の中に、湯気の立つ冷たい沼がいくつも見える。独特の風景だ。多くの人々にとっては、恐らく陰気な場所だろう。しかしアルゴニアンの私にとって、適度に湿り気のあるこういった場所は非常に心地いい。沼地にところどころ氷が張っているのは気に食わないが。
とはいえ、今日はウステングラブへ足を延ばすのはやめた方がいいだろう。時刻が中途半端だ。いくらアルゴニアンでも、沼地で夜を迎えたくはない。
ここがハイヤルマーチの首都モーサルだ。大きな沼地の上に立つ美しい村だ。家を持つならこういう場所がいいな。
グレイビアード召喚の噂は、こんな田舎町まで届いているようだ。この町でも召喚の声が聞こえたのかもしれない。
ここの首長はイドグロットという不思議な力を持つ老婆だ。彼女は未来を見通すという。
しかし町の住人達は、彼女の予見の力を忌々しく感じているらしい。彼女が魔法使いを町に呼んだのも不満の一つだ。小さな町ではあるが、いくつもの問題を抱えているようだ。
薬を買いに錬金術の店を訪れると、イドグロット首長の娘も店にいた。彼女自身も不思議な力を持っており、そのせいで頭痛持ちらしい。
不思議な力を持つのは大変なことだ。ドラゴンボーンの力を持つ私にもよく分かる。しかし特殊能力を持つ私をいつも悩ませるのは頭痛でも肩こりでもなく、寒い懐である。
ホワイトランの従士でもあるので、首長に挨拶に行った方がいいかもしれない。そう思って首長の館を訪れると、首長は私を見て「ここへ来る定めだった」と言った。
私が来るのを知っていたとは。そして私の未来も見通しているようだが、それは語ってくれない。今に分かるさ、というわけだ。町の住人が彼女を気味悪がったり、疎んじたりするのも仕方のないことかもしれない。
早い時間に宿をとった。町を一通り歩いてみたが、住人達はよそ者には無愛想だった。旅の者に沼地での静かな生活を乱されたくないようだ。
宿の女将に話を聞くと、場所が場所だけに旅人自体少なく、内戦でさらに少なくなってしまったとのこと。町の住人達がいっそう陰気で人見知りになってしまった理由か。
全く思いがけないことだが、宿には吟遊詩人がいた。妙に愛想がいいオークで、彼の陽気さは陰気なモーサルで浮いて見えるほどだ。
無愛想な住人達にもめげる様子がない。何が彼をここまで明るくさせているのだろう。
どうやら宿の女将に惚れ込んでいるらしい。好きな人と一緒なら、毎日がご機嫌なのだ。
彼は時々貴族階級の来客をもてなすと言うが、来るのか。こんな小さな町に。その時一瞬、リフテンまでの道中で一緒になった貴族一行を思い出した。ソリチュードの結婚式に出ると言いながら、奥方が山賊との戦闘で討ち死にした可哀そうな一行だ。無事にソリチュードへたどり着けただろうか。
前へ |
次へ