翌朝、村の前で傭兵達ともめていた村民に話を聞きに行く。
どうやら村の鉱山がフォースウォーンとやらに襲われ、傭兵達が現れて助けてくれたはいいが、今度はその傭兵達が鉱山に居座ってしまったらしい。
話をつけてくれれば報酬を払うとのことだ。事と次第によっては剣が必要になるだろうとも言われた。
私は盾を携え、傭兵達が居座る鉱山へと足を踏み入れた。
このアタールというのが傭兵達の頭だ。
彼はシルバーブラッド家というマルカルスの有力者に雇われ、この鉱山を地上げに来たらしい。
何と言われようとここから退くつもりはないし、力づくでくるなら容赦はしないという。
こちらも村長に金で雇われた傭兵だ。同じ傭兵同士、なんとか血を見ずに解決したいものだが……。
私はシルバーブラッドにいくら貰っているのか尋ねてみた。いくら金で雇われる身とはいえ、一度結んだ契約を覆すのは傭兵として信頼を失う行為だ。
が、この男はそういったプライドは持ち合わせていないらしい。私が懐の金を見せると、簡単に寝返ってくれた。
思っていたよりずっと楽に事が運んだ。
村長に報告すると、彼は喜んで約束の報酬を支払ってくれた。その額は、私が先ほどアタールを買収した値段よりはるかに多い。
彼も最初からその金を奴に見せていれば、揉めることはなかったろうに。
鉱山が解放され、労働者達が坑道へ入っていく。入れ替わりにアタール達が村を立ち去るところだ。聞けば一度マルカルス近辺へ戻るそうだ。私もちょうどマルカルスへ向かうつもりだから、道中を共にさせてもらおう。リーチはフォースウォーンとやらが出没するので、旅人はそろって行動した方がより安全だ。
アタールの部下の傭兵達は、よく見ると三つ子だった。三つ子の部下を持つ傭兵の頭か。
私も腕がたつようになったら、こういった部下を持てる身になるだろうか。
カースワステンを出発して間もなく、避難民の夫婦とも一緒になった。強そうな傭兵の一行と会い、彼らも喜んでいる。ただで守ってもらえるようなものだからな。
さらにムアイクも加わる。
内戦で旅人が減っている最中、ここまで同じ方向へ向かう道連れが多くなるのも珍しいことだ。
この人数であれば、フォースウォーンも襲ってはこない。そう思っていたのだが、突然三つ子たちが剣を振り上げて走り出した。
私達を襲おうという無謀な輩がいるのか。
三つ子達が見つけた敵は、ただの蟹だった。
彼らは相手が何であれ、戦う時は一切手加減しない主義らしい。
川のそばの小村で、とうとうフォースウォーンに出くわした。
アタール達にとっては二度目のフォースウォーン退治となるが、どうしたことか三つ子の傭兵達はくるりと向きを変えて逃げ去ってしまう。アタールもやる気が無さげだ。戦って勝ったところで金にならないからだろう。怯えた農夫達も悲鳴を上げながら来た道を戻っていった。
私一人で対処したのは言うまでもない。逃げても逃げてもあいつらは執拗に追いかけてくるのだ。山賊よりはるかにしつこい。
フォースウォーンのおかげで、賑やかな道中がすっかりさびしくなってしまった。
私は一人とぼとぼと街道を進み、まもなくマルカルスの城外集落へと辿りついた。
この集落は鉱山労働者のものらしい。
労働者達が寄り集まってなにやら深刻そうな話をしている。またシルバーブラッドがらみのいざこざだろうか。
尋ねてみると、川向こうの金鉱山からフォースウォーンに追われた労働者達が、命からがら逃げてきたところらしい。
もしかしてそこは、私が先ほどフォースウォーンに襲われたところだろうか。
屋外にいた連中は始末したから、あとは鉱山を見つけて中の連中を始末すれば片が付くということか。
退治してやろうと申し出ると、労働者の頭はお前一人では無理だという。
無理かどうかはおのずと明らかになるだろう。
私は来た道をすぐさま引き返し、金鉱山へと突入した。見張りを倒すくらいはわけがない。半裸だけあって、一人一人は打たれ弱い。
ところが、私は思わぬ魔法の洗礼を受けた。
魔法の盾を展開しながら炎の魔法を使いこなして襲ってくる奴がいる。独学で魔法を使うウィザード崩れの山賊とは一味違う威力だ。
しかし私はシャウト使いなのだ。
隙を見て氷晶を食らわし、動きを封じたところで猛攻をかければ相手はひとたまりもない。
勝つには勝ったが、やはり他の連中より少々強かった。
倒した死体をひっくり返すと、妙なものが見える。このフォースウォーン、心臓の部分に大穴があいているぞ。どういうことだ。これはアンデッドかなにかなのか。
謎を残したままマルカルスまで戻り、鉱山労働者達に事の次第を報告する。
鉱山に戻るのを諦めていた労働者達は大喜びで、私の為に報酬の金をかき集めてくれた。
そして例の心臓に大穴があいたフォースウォーンは、「ブライアハート」だと教えてくれる。ハグレイブンに古くから伝わる魔術で、心臓のかわりにブライアハートを埋め込んだ改造人間なのだと。
なんと恐ろしい。そこまでして彼らは強さを求めているのか。
外へ出ると、もう日が落ちている。
このリーチ地方というのは、スカイリムでも独特の雰囲気を持った地方のようだ。
首都はドゥーマーの遺跡をそのまま再利用しており、この辺りもホワイトランなどとはかなり異質だ。
見事なドゥーマー建築の城壁を通り、街中へと入る。
物々しい石造りの町の狭間には、人々の雑多で活気ある市場が広がっていた。時間的に、夕食の買い物をする客が多いのだろう。観光客らしき女性の姿も見える。
宿を探そうと向きを変えた私の視界の端で、少々信じられない事件が起きた。
夕暮れの市場で、宝飾品を見ていた観光客の女性が突然労働者風の男に後ろから刺されたのだ。
男は「フォースウォーンのために!」と叫びながら魔法を構える。駆けつけた衛兵のメイスが、その無防備な背中を捉えた。
体勢を崩した男に、衛兵は素早く盾の一撃を加える。盾は身を守る防具だが、使いようによっては非常に凶悪な鈍器にもなるものだ。
夕暮れの市場は、この惨劇で一変してしまった。
私も突然の出来事に、女性を助けることも衛兵に加勢することもできなかった。なんとも情けない。そして、この世はなんと非情なものか。よほど人心が荒んでいる。
それにしてもまたしてもフォースウォーンがらみとは。
市場の人々の話によれば、ノルドを敵と見なしてリーチから追い出そうとしているらしい。いや、追い出すというより皆殺しでの一掃か。
どうやら彼らはノルドに強い恨みを持っているようだ。そういえば、この地方は昔からノルドが住んでいたというわけではないらしい。フォースウォーンはノルドに追い出された先住民ということか。
ややこしい問題は苦手だ。
立ち去りかけた私の背に、若い男が声をかけてきた。「メモを落とさなかったか」と。
否定の印に首を振ろうとする私を制して、男は強引に手の中に紙切れを握らせてきた。この行為だけで、メモが彼からのメッセージだと分かる。
しかし若者よ、行きずりの旅人にこんなものを握らせるものではない。こちらには読む義務など無いのだから。せめて紙切れに金貨を数枚包むべきだった。そうすれば、大半が紙切れを開けて中身を目にするだろうから。
宿と間違えて入った雑貨屋でも、表の騒ぎで持ちきりだった。
雑貨屋の女主人はまたかとため息をついている。フォースウォーンの跳梁跋扈ぶりは首長もお手上げらしい。仕入の品も彼らに襲われてほとんど届かず、品薄状態。特に最近奪われた高価な美術品で大損害を受けたという。
傭兵だと名乗る私に主人はあまり気乗りのしない風だったが、物さえ持って帰ってきてくれればそれなりの礼をすると約束してくれた。
宿へ入ると、雑貨屋の運搬夫がくだをまいていた。
ちょうどいい。仕事がなくて暇なら、明日、このリーチを案内してもらおうではないか。
ついでに美術品を取り戻す手伝いもしてくれたら、報酬を山分けだ。
前へ |
次へ