今日は声の道の創始者の墓へ行く。
嫌な予感が非常にするので、5時に宿を発った。これで墓参りにたっぷり時間をかけられる。
町を出る間際、衛兵達が色めきたった。空を見上げると悠然とはばたくドラゴンの姿が山側に見える。
身構えてしばらく待ったが、奴は町を襲う気はなかったらしく、どこかへ飛び去ってしまった。
朝からすっかり肝が冷えた。
時に膝まで沼地につかりながら、ウステングラブを目指す。
そういえばまだ朝食をとっていなかったのを思い出す。ちょうど墓が見えてきたから、雪景色の沼地を見ながら少し食べようか。
しかしあの墓の形状、地下に大霊廟が広がっているタイプだ。
墓に近づくや否や、柱の影から山賊達と魔法使いが飛び出してきた。
ここでも墓荒らしか。創始者の墓を荒らすとは不届き者達め。
外にいた魔法使いは死霊術師だった。山賊達は奴らに殺され、下僕にされていたらしい。
休む間もなく暴かれた墓の扉をくぐる。墓に入ってすぐの広間で、死霊術士らが山賊の死体を操って発掘作業をさせていた。
彼らに言わせれば、山賊達は猛吹雪の中のアルゴニアンよりノロいそうだ。失礼な。
しばらく潜んで彼らの話を窺う。彼らの目的はよく分からぬが、この墓が誰のものであるかは知らないようだ。霊廟のミイラを大量に手に入れたいだけかもしれない。
しばらくすると、墓の奥で誰かの声が響いた。立ち話をしていた死霊術士らも、様子を見に奥へ立ち去って行く。
こっそり後をつけるのは苦手だ。しかし魔法使い達は墓の奥で起こった出来事に気を取られている。
もしかして、ドラウグルでも掘り当てたか。
掘り当てていたようだ。
ドラウグルと死霊術士らの戦闘を影で見守り、死霊術士らが勝利をおさめたところで参戦する。
漁夫の利だ。ドラウグルとの戦闘でマジカを使い果たしていた彼らは、拳一つでたやすく伸びた。
創始者の墓はブリークフォール墓地程でないにしろ、かなりの規模だ。ユルゲン・ウィンドコーラーは武将でもあった人だから、彼の部下たる戦士達も同じ場所に葬られたのかもしれない。
かなりの数のドラウグルを相手にせねばならないのではと危惧していたが、私が見つけたのはすでに動かなくなったドラウグルがほとんどだった。
死霊術士らの仕業だろうか。しかし彼らはまだこれほど奥には来ていなかったはずだ。
まれに魔法を使ってくるドラウグルに出会う。今のノルドは魔法をひどく嫌っているが、古代ノルドは違うらしい。
猛吹雪の中のアルゴニアンというわけではないが、私は連中が使ってくる冷気の魔法が苦手だ。尻尾の感覚が奪われるのだ。寒いのはとにかく勘弁してもらいたい。といっても尻尾をこんがり焼いてくる炎も同じくらい嫌なのだが。
墓が途切れ、ひらけた竪穴に出た。素晴らしく美しい。
竪穴の底には、流れ込んできた地下水脈が滝を作っている。滝の近くに見えるのは言葉の壁のようだ。
スケルトンどもを蹴散らし、壁へ向かう。
ところで私はただの墓参りをしに来ただけなのだが、襲いかかってくるユルゲン・ウィンドコーラーの共同埋葬者達を粉砕してしまっていいのだろうか。襲いかかってくる以上、こちらも身を守るために応戦するしかないのだが。
ようやく壁の所まで降りられた。
ここの壁にも、なにか私に語りかけてくるひとつの単語が刻まれている。
「幽体」か。
他にも色々と書かれているのだが、さっぱり読めない。
書き写して、ファレンガーに見せたら教えてもらえるだろうか。懐を探って書くものを探す。紙と小さな木炭を持ち歩くべきかもしれない。ひとまずその辺に落ちていたボロボロのリネンにメモしておこう。
竪穴の向こうには、再び墓の構造物があった。
この辺りはこれまでと様子が違う。どうやらここから声の力を駆使して進まねばならないようだ。
様々な罠が仕掛けられている。私は旋風の疾走でひたすら走り抜けた。先ほど見つけた「幽体」の言葉が使いたかったのだが、私にはまだ使いこなす力が及ばないようだ。
炎の罠に焼かれながら通路を駆け抜けると、終点でフロストバイトスパイダーが私を待っていた。
キナレスよ感謝します。七千階段の標章を巡礼していなかったら、私はここで試練を終了していたかもしれない。
ついに最奥までたどり着く。
罠に続く罠ですっかり疑心暗鬼になっていた私は、突然水面を盛り上がらせた墓所の池に死ぬほど驚いた。
どうやら古代の石像が侵入者を出迎えてくれただけのようである。
……両脇から火でも吐かれるわけではなくて、本当に良かった。
目にしたユルゲン・ウィンドコーラーの棺は、思っていた以上に小さく質素だった。棺の上部にしつらえられた人間の手の彫刻が、他の棺にはあまり見られない装飾だろうか。まるでユルゲンが棺の中から手を突き出しているようだ。
私は角笛を求めて彼の手の中を覗いてみた。そこにあるのは紙切れだけだ。しかも妙に新しい紙だ。
二つ折りになっていた紙をはらりと開く。
「スリーピング・ジャイアント」とは、あの「スリーピング・ジャイアント」のことか。ここに書かれているドラゴンボーンとは、私を指しているのだろうか。
紙に書かれていた内容は、あまりに意外なものだった。古代の墓の中で古代の戦士と戦い、古代の罠を潜り抜けてきた私は、現代まで心を呼び戻すのに多少の時間がかかった。
手紙の主は、これまでに見たドラウグルの死体を作った謎の侵入者のことか。
私は何も得ぬまま、とぼとぼと創始者の墓から退出した。
いったいこれはどういうことか。誰かが、ハイフロスガーでのグレイビアードとの会話を盗み聞いて、先にウステングラブへ入ったというのか。
無駄足だ! 全くの無駄足だった。
その後、どうやってモーサルに帰ったか、あまり覚えていない。ヤケで旋風の疾走を連発し、沼地の水面を駆け巡ったことだけは覚えている。
うかうかと角笛をかすめ取られ、創始者に合わせる顔がない。グレイビアード達にもだ。
墓で襲いかかってきたドラウグル達は、不甲斐ない声の道の新参者に怒っていたのだ。
この日の晩、私は有り金をはたいて慰めのスイートロールを買った。しかし純白のアイシングがかかった山形のパウンドケーキを見て世界のノドを思い出し、再度深いため息が漏れたのは言うまでもない。
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